はじめに
サービス産業をより反映する景気動向指数へ

ではなぜ今、景気動向指数を見直すのでしょうか。今回の見直しの背景には、日本経済の構造変化があると考えられます。現在のCI一致指数とDI一致指数は、基本的に同じ10の経済指標を使っています。その中には、鉱工業生産に加え、鉱工業用生産財、耐久消費財、投資財の出荷指数など、製造業に関連する指標が複数含まれています。
製造業は、今も日本の経済や輸出を支える重要な産業です。自動車や半導体製造装置、電子部品などの生産動向は、企業業績だけでなく、国内の設備投資や雇用にも影響します。
一方、日本経済におけるサービス産業の存在感も大きくなっています。情報通信、医療、観光、外食、金融、ソフトウェアなど、私たちの生活や企業活動を支えるサービスは多岐にわたります。ところが、従来の景気動向指数は製造業関連の指標の比重が大きく、サービス産業の動きを十分に反映できていないのではないかという課題がありました。
2020年7月の景気動向指数研究会では、経済構造の変化を踏まえた指数の見直しが必要との意見が出されました。その後、内閣府は新たな指数の研究を進め、2022年8月から「景気を把握する新しい指数(一致指数)」を参考指標として公表してきました。
今回の見直しは、この参考指標をさらに改善し、景気の実態をより幅広く捉えようとするものです。
「生産・分配・支出」の17指標で構成する新CI
新CI一致指数では、これまでの10指標から17指標へと構成が変わります。最大の特徴は、日本経済を「生産」「分配」「支出」という3つの側面から捉えることです。生産とは、企業がモノやサービスを生み出す活動です。分配とは、その経済活動によって生まれた所得が、賃金や企業利益などとして分配されることです。支出とは、家計の消費や企業の設備投資、輸出などを通じて、モノやサービスが購入されることを指します。
例えば、企業が商品を生産して売上を増やし、従業員の賃金が上がれば、家計の購買力が高まり、個人消費の拡大につながる可能性があります。また、企業が利益を設備投資に振り向ければ、新たな機械やシステムの需要が生まれます。今回の新CIでは、このような経済活動のつながりを、より幅広い統計から確認できるようになります。
具体的には、生産面で鉱工業生産や建設出来高に加えて、個人向け、事業所向けのサービス活動を採用します。分配面では、第二次産業と第三次産業の実質総雇用者所得、実質営業利益を使います。支出面では、小売業や個人向けサービス、資本財総供給、民間建設出来高、ソフトウェア受注、輸出などを取り込みます。これまでの指数と比べて、サービス消費やデジタル投資、家計所得の動きなどが景気判断に反映されやすくなる設計です。
例えば、製造業の生産が弱くても、外食や旅行などのサービス消費が増え、雇用者所得も改善している場合、新CIではそうした動きを確認しやすくなると考えられます。
ただし、17指標を採用するからといって、すべての産業や経済活動を網羅できるわけではありません。新CIは実質GDPの動きとの整合性を高めるよう改善されていますが、GDPそのものを示す統計ではない点にも注意が必要です。
物価高の影響を取り除く「実質化」
今回の見直しでは、景気を測る際に物価変動の影響を取り除く「実質化」も進められます。これは、物価上昇が続く日本経済を考えるうえで重要な変更です。例えば、ある小売企業の売上高が前年比10%増加したとします。一見すると好調な業績ですが、商品の販売価格が10%上昇していた場合、販売数量が増えているとは限りません。
家計も同じです。毎月の食費が5万円から5万5000円に増えたとしても、それが食品価格の値上がりによるものであれば、以前より多くの食品を購入できているわけではありません。
名目の金額が増えることと、実際の経済活動が拡大することは、分けて考える必要があります。新CIでは、営業利益や建設出来高などを実質化し、物価変動の影響を調整した指標を採用します。とはいえ、営業利益は売上高から費用を差し引いたものであり、商品価格の上昇だけで決まるわけではありません。実質営業利益も、企業ごとの販売数量や収益力を直接示すものではない点は押さえておきたいところです。投資家としては、企業決算を見る際にも、売上高や利益の増加がどのような要因によるものなのかを確認することが重要です。
例えば、食品メーカーであれば、値上げによって売上高が伸びているのか、販売数量も増えているのかによって、今後の成長性に対する見方は変わります。
価格転嫁が進み、利益率が改善している企業もあれば、原材料価格の上昇を十分に販売価格へ転嫁できず、利益が圧迫されている企業もあります。景気動向指数の実質化は、こうした物価と経済活動の違いを、マクロ経済の面から捉えようとする取り組みでもあります。