はじめに
株式分割が相次ぐ3つの背景

株式分割のニュースを目にする機会が増えたと感じている方も多いのではないでしょうか。
東京証券取引所によると、2022年10月に投資単位の引き下げを上場企業に要請して以降、2026年6月末までに延べ約760社が株式分割を決議しています。2025年7月から2026年6月までの1年間だけでも276社にのぼります。
2026年9月末にも、キオクシアに加えて、大和ハウス工業、イビデン、三井金属、東京エレクトロン、三井住友フィナンシャルグループ、東京海上ホールディングスなど、多くの企業が株式分割を実施しました。
東証による投資単位引き下げの要請
ここまで分割が増えている背景として、まず挙げられるのが東証の取り組みです。
東証は個人投資家が投資しやすい環境を整えるため、「望ましい投資単位」として50万円未満という水準を示しています。投資単位が50万円以上となっている企業には、50万円未満へ引き下げるための考え方や方針の開示も求めています。
2026年7月28日には、投資単位が50万円以上となっている企業に対し、改めて株式分割の検討を要請しました。こうした取り組みもあり、2026年3月末時点では、東証上場企業の93.4%が投資単位50万円未満となっています。
企業にとって株価が上昇することは、もちろん歓迎すべきことです。しかし業績が伸び、株価が上がった結果として、「個人投資家には買いにくい会社」になってしまうわけです。そこで株式分割によって、投資単位を引き下げる必要が出てきます。
新NISAによる個人投資家層の拡大
もう一つ大きいのが、2024年に始まった新NISAです。新NISAの成長投資枠は年間240万円です。100株で300万円必要な銘柄であれば、成長投資枠だけでは1単元も購入できません。100株100万円の銘柄でも、年間投資枠の4割以上を1銘柄で使うことになります。
長期・分散投資を考えると、最低投資金額が高すぎることは投資家にとって大きな制約になります。企業側から見ても、新NISAをきっかけに株式市場へ入ってきた投資家に自社株を保有してもらいたいのであれば、最低投資金額を無視できなくなっています。
象徴的なのがNTTです。NTTは2023年7月に1株を25株にする大規模な株式分割を実施し、最低投資金額を大きく引き下げました。新NISAが始まった2024年には個人投資家から高い関心を集めました。 もちろん、株式分割だけが人気の理由ではありません。ただ、「誰でも買いやすい価格帯」にしたことが、株主層を広げる一つの要因になったと考えられます。
最近では、50万円未満にするだけでなく、10万円台まで投資単位を引き下げようとする動きも目立っています。新NISA時代には、「100株をいくらで買えるのか」が、企業の個人株主戦略としてこれまで以上に重要になっていきそうです。
日本株の上昇による投資単位の高額化
株式分割が増えている三つ目の理由としてシンプルに日本株が上昇したことも挙げられるのでは。企業が何もしていなくても、株価が2倍になれば最低投資金額も2倍になります。特に業績拡大やテーマ性を背景に大きく上昇した半導体、金融、重工などでは、投資単位が高額になった企業が増えています。そこで株式分割を行い、再び投資しやすい価格帯に戻す動きが出ています。東京エレクトロンは、そのわかりやすい例です。同社は2023年4月に1株を3株に分割しましたが、2026年にも再び株式分割を実施します。一度分割しても、その後の株価が大きく上昇すれば、最低投資金額は再び高くなります。