はじめに
皆さんは「ポテチショック」を覚えていますか。2016年夏に北海道を襲った台風の影響などで、ポテトチップスの原料となるジャガイモが不作に陥り、翌2017年の春以降、店頭からポテチの姿が次々に消えていきました。
あれからまもなく1年。2017年の北海道は天候に恵まれ、ジャガイモの品質は良好。収穫量も100万トンを回復しました。菓子メーカー各社のポテチ製造ラインも通常操業に戻っています。
こうした“完全復活”を受け、湖池屋が太っ腹な企画を打ち出しました。その狙いはどこにあるのでしょうか。
通常ポテチは20%の増量
「ポテチショックの時も、変わらず応援してくれたお客様に感謝を込め、『湖池屋じゃがいも復活感謝祭』を実施します」。1月23日に開いた記者発表会の冒頭、湖池屋の小池孝会長は高らかに宣言しました。
同社は2月5日から順次、ポテチの全ブランドで増量企画を始めます。対象となるのは、通常の「ポテトチップス」のほか、「カラムーチョ」「すっぱムーチョ」、プレミアム商品の「プライドポテト」など。ポテトチップスのレギュラーサイズが20%の増量で、それ以外の商品は10%の増量です。
2016年夏の台風に伴う河川の氾濫で、湖池屋のシレラ富良野工場は浸水。3ヵ月の操業休止に追い込まれました。機械のほとんどを入れ替えないといけない事態に、不作による原料不足が重なり、同社の事業は大打撃を受けました。
「馬鈴薯にかかわる産業と北海道の生産者にとって、歴史上最大の事件だった」。小池会長はそう振り返ります。
単なる“恩返し”だけが目的ではない
しかし、翌2017年の北海道の食用馬鈴薯の収穫量は前年比12%増の102万トンまで回復しました。単位面積当たりの収穫量が増えただけでなく、作付面積も増えたことが影響したといいます。
そして、工場の操業も通常モードに復活したことを受けて、今回の増量企画を決断しました。湖池屋の柴田大祐マーケティング部長は「昨年食べてもらえなかった分、たくさん味わってもらいたい」と意気込みます。
ただ、今回の太っ腹企画の狙いは、単なる恩返しだけではなさそうです。
小池会長は会見で、こんな考えを明かします。「(増量分のコスト増は)持ち出しなので、短期では利益の減少につながります。しかし、もう少し長いスパンで考えたい」。
これまでは生産を増やしたいと思っても、原料の収穫が増えない状態でした。これが昨年、ポテチショックを受けて作付面積が増え、中長期での原料の増加が見込める状況に変化しました。こういう時こそ、ポテチの販売数量の伸びを加速させておきたい。そんな思惑も企画の裏側には潜んでいるようです。
発売わずか1年で製法などを一新
そんな野心あふれる増量企画の“尖兵”としての役割を担うのが、プレミアム商品のプライドポテトです。他の商品に先駆けて、2月5日から増量商品が店頭に並び始めます。
これに合わせて、発売からわずか1年しか経っていないにもかかわらず、製法やパッケージを一新。チップスの厚み、揚げ方、食感などを見直したといいます。
特に力を入れたのが、創業の味でもある「のり塩」。焼きのり、あおさ、青のりという3種類ののりを使用し、これまでよりも風味を濃厚にしたそうです。「工場のラインでつけられる限界の量まで、のりをつけました」(柴田部長)。
注力商品であるプライドポテトについては、増量企画の後も販売数量を増加させるための布石を打ち続けます。5~6月には「ジャパン・プライド・プロジェクト」と題し、日本ならではの味付けを施した新商品を発売します。
プレミアム商品2年目の目標は50億円
5月から販売するのは「天ぷら茶塩」。新製法によって、天ぷらのようなサクサク食感を再現したそうで、硬さがありながら、口の中で砕けるクラッシュ感が特徴です。そこに、愛知県西尾産の抹茶と福岡県八女産の甜茶をまぶすことで、後味の油っぽさを抑えたといいます。
「本物のじゃがいもの天ぷらのような商品。海外展開にも活用していきたい」。柴田部長は鼻息荒く、そう語ります。
発売初年度の出荷目標を20億円に置いていたプライドポテトですが、フタを開けてみると「もう少しで40億円が見えてきている状況」(柴田部長)。2年目の目標は50億円と、拡販にさらに拍車をかけていく格好です。
原料産地も含めた生産現場が完全復活を果たし、増量企画とプレミアム商品の拡充で一気呵成にシェア拡大を狙う湖池屋。その成否は、発売1年での見直しを決めたプライドポテトが消費者に受け入れられるかどうかにかかってきそうです。