出版科学研究所が1月25日に発表した「2017年の出版市場の状況」が、業界に激震を走らせています。

長期低迷が続いている紙の出版物が前年比6.9%減の1兆3,701億円だったのはまだ織り込み済みだとしても、問題はその内訳でした。なんと出版業界の稼ぎ頭だったマンガ単行本の売り上げが約13%減と、初めて2ケタの減少を見せたのです。

背景について、「ネットの海賊版が横行しているから」と見る向きもありますが、はたしてそれだけが理由なのでしょうか。


まだら模様だった出版不況

「出版不況」と言われて久しいものです。かつては2兆円市場だった出版業界ですが、規模の縮小はかなりのところまで進んできました。

とはいえ、これまでは出版業界でもすべてが悪いという状況ではありませんでした。分野によって好不調が分かれていました。

市場の縮小が顕著なのは雑誌です。ここはスマートフォンが普及して以降、どうしようもないぐらい売れ行きが下がり、多くの出版社で赤字を生んでいます。

一方、売り上げの減少トレンドは明確だけれども利益は出せているのが、一般の書籍です。売れ行きは総じて苦しいとはいえ、映画化作品、ノーベル賞受賞作品など毎年話題の書籍が出現し、その売り上げによって全体の落ち込みをカバーする状況が続いています。

こうした逆風の中でも、大手を中心にこれまで出版業界がなんとかやってこられたのは、マンガの存在があったからでした。2000年代に入っても2014年までは「前年よりも減る年もあるけれど、増える年もある」という推移をたどってきました。

「最後の砦」から火の手が上がる

ところが、このマンガの売り上げが2015年にガクンと落ちると、2016年は落ち幅が大きくなり、そして昨年さらに2ケタ減を記録してしまいました。

出版業界において、売り上げが堅調だったマンガはこれまで「最後の砦」と言われてきました。その砦からもついに火の手が上がり始めたということで、業界に大きな衝撃が走ったのです。

その背景について、「ネット海賊版の横行がある」とする報道もあります。確かに、ネット上には海賊版のマンガサイトがあって、そこで人気タイトルを無料で読むことができるのです。

昨年5月に海賊版の大手だったフリーブックスが閉鎖に追い込まれましたが、海外のサーバーを使って無料のマンガを提供し、広告収入を得る海賊版サイトは、そのすべてを摘発するのは難しく、いたちごっこが続いています。

確かに、若者がスマホを使って海賊版のマンガを読むようになると、有料のマンガ本や電子書籍のコミックスの売り上げが下がるというのはわかります。しかし、3年間で500億円もの規模で市場が縮小し、フリーブックス閉鎖後もそのトレンドが変わっていない状況を見ると、マンガ減収の真犯人は他にもありそうです。

100万部超えは「少年ジャンプ」だけに

これは個人的な話なのですが、昨年はとても重大な決断がありました。10歳の頃から45年間、欠かさずに買い続けてきた「週刊少年マガジン」の購読をやめたのです。

小学生の頃、ちょうど読み始めた当時は『あしたのジョー』の連載の後半辺り。その後も『野球狂の詩』『1・2の三四郎』『バリバリ伝説』『シュート』『金田一少年の事件簿』など、途切れることなく人気マンガを生み出してきました。

しかし、マンガ雑誌全体で凋落が始まりました。マンガ雑誌には100万部を超える部数を発行していた3大雑誌があったのですが、まず「コロコロコミック」が、続いて「週刊少年マガジン」が100万部割れしたことで、現在では発行部数100万部を超えるマンガ雑誌は「週刊少年ジャンプ」ただ1誌という状態になってしまったのです。

マンガ雑誌は、もともと「たとえ雑誌が赤字でも、単行本の販売と合わせれば黒字に持っていける」というビジネスモデルです。ある意味、雑誌はマンガの宣伝メディアで、単行本がマンガの最終商品ということになります。ところが、それが成り立つためには雑誌の部数がある程度売れていないとダメなのです。

崩れ始めた“好循環の法則”

良い循環が起きるためには「1つのマンガ雑誌の中に人気連載マンガが3作ないとダメだ」といわれています。3作の読みたいマンガが連載されていれば、読者は週刊誌を買ってくれるのです。

そして週刊誌を買うと、ついつい他のマンガも読むことになります。これが新しいマンガのお試し宣伝の役割を果たしているのです。読者が雑誌を買って、ついでに新しい作品も読むから常に新陳代謝が起き、人気マンガの連載が終わる頃には新しい柱となる作品が誕生してくる。

しかし「週刊少年マガジン」の場合、これは私個人の感想ではあるのですが、『エリアの騎士』の連載が終わり、『ベイビーステップ』の連載が終わった段階で、あと読むべき作品は終了間際の『はじめの一歩』だけになってしまいました。

そうなると、毎週雑誌を買う必要がなくなるのです。言い換えれば『はじめの一歩』の単行本だけ買えばよくなるわけです。そしてその結果、雑誌で新しい連載が始まり、仮にそれがとても面白い作品だったとしても、もう読者の目には映らなくなってしまうのです。

マンガ雑誌の多様化が引き金

私が今、定期的にコミックスを買っているマンガ作品は他には『ONE PIECE』が「週刊少年ジャンプ」、『キングダム』が「週刊ヤングジャンプ」、『ゴルゴ13』が「ビッグコミック」、『ナナマルサンバツ』が「ヤングエース」、『ベルセルク』が「ヤングアニマル」、『トミノの地獄』が「月刊コミックビーム」という状況です。

そして、「週刊少年ジャンプ」を除けば、すべてのマンガ雑誌に1作品しか読みたいマンガがないという状態です。

実はここが問題なのです。マンガ雑誌が少年誌、青年誌と分かれ、さらにさまざまな出版社に広がり、数が増え、多様化した結果、「1雑誌、3人気作品」という勝利の方程式を成り立たせることがマンガ業界としてできなくなってしまったわけです。

つまり、マンガ業界凋落の真の原因は「マンガ雑誌の乱立」にあるというのが私の見立てです。もしそうだとすれば、これは今の業界事情を考えると、残念ながら「不治の病」なのかもしれません。