はじめに
過剰な貸し付けが問題になっている銀行カードローン。この貸付額の大きい12行に対し、金融庁は立ち入り検査を実施。1月26日に、その中間とりまとめを発表しました。
消費者ローン業者には、年収の3分の1を超える貸し付けはできないという総量規制があります。ところが、銀行のカードローンはその適用対象外となっています。規制の枠をすり抜ける形で、年収と同額に近い貸し出しまで実行されるようになっているのです。
その結果、2006年度には消費者ローンが17.3兆円、銀行カードローンが3.4兆円と大きな開きのあった両者の残高は、徐々に接近。2014年度に逆転し、2016年度には消費者ローンが4.5兆円、銀行カードローンが5.6兆円となっています。
なぜこうした状況になっているのでしょうか。そして、私たちは銀行カードローンに対して、どう接していけばいいのでしょうか。
ローンが組めるのはいいことなのか
銀行の融資審査能力が、著しく低下しています。以前ならば、決して貸さなかったような個人に、大きな金額を貸すようになりました。
20代シングルマザー、貯金なし、健康に問題があって団体信用生命保険に入れない女性が、中古の一戸建てを買うために約4,000万円の住宅ローンを申し込んだところ、簡単に認可が出てしまったケースもあるそうです。
「出てしまった」というのは、無理して一戸建てを買うのがその人にとっていいことか、正直疑問だからです。「持ち家がないと不安」「いざという時、家さえあれば何とかなる」と考えて、家を買いたくなるのもわかります。ただし、その人は「借金がない」ことがどれだけ幸せか、気づいていないと思います。
大きな借金を背負って生きていくのは、とても大変なことです。体調を崩して、一時的に収入が途絶えても、借金の返済は続きます。持ち家はなくても、借金なしで生きていくほうが、はるかに安心で堅実ではないでしょうか。
昔はあった、銀行の「ブレーキ機能」
昔は、過大な借金をして、住宅を買おうとしても、銀行が貸しませんでした。銀行には「過大な借金を負うのにブレーキをかける機能」もあったわけです。銀行が貸してくれないために、憧れのマイホームを手に入れられない一方、過大な投資をせずに済むという面もありました。
銀行が貸さないことに対して、「貸し渋り」「貸し剥がし」と批判する風潮もあります。確かに、「晴れた日に傘を差し出し、雨の日に取り上げる」ような行為は批判されるべきです。だからといって、銀行が無謀な投資にブレーキをかけなくなるのも考え物です。
甘い審査で銀行が大きな金額を貸すようになった昨今、「銀行が貸してくれるから」「銀行のお墨付きをもらった」と安心して、大きな金額を借りるのがいいことか、冷静に考える必要があります。
利ザヤ縮小で藁をもつかむ
日銀がマイナス金利を導入してから、国内の商業銀行の基礎体力は著しく低下しています。今のままでは、大手銀行でも国内の商業銀行部門で大規模な人員削減が必要になるとの試算もあります。
利ザヤ(預金金利と貸出金利の差)縮小に苦しむ国内銀行は、生き残りをかけ、「溺れる者は藁をもつかむ」の勢いで、利ザヤの取れる個人ローンを拡大しようとしています。住宅ローンだけでなく、無担保で借りられるカードローンやフリーローンでも、かつてないほど融資基準が緩んでいます。
かつて消費者ローン業界が競って過剰な貸し付けをあおり、個人破産が増えて社会問題となったことがあります。こうした問題を防ぐ目的から、2006年に貸金業法が改正され、2010年に完全施行となりました。これにより、グレーゾ-ン金利の廃止や、年収の3分の1を超える貸し付けが禁止されました。
ところが、マイナス金利による利ザヤに苦しむ銀行が今、カードローンやフリーローンを使って、一斉に総量規制の枠を超える貸し出しに走っています。
最後に頼れるのは自身の冷静な判断
さすがに今回の金融庁の指摘を受けて、銀行の融資姿勢もやや慎重になってきています。それでも、マイナス金利の苦しみから逃れるため、何としても個人ローン残高を増やしたいという思惑は変わりません。
金融庁は今後、銀行カードローンを取り扱っているすべての銀行に対し、検査を含めたモニタリングを継続していく方針です。同時に、顧客の相談窓口の拡充や信用情報機関に登録される情報の精緻化などをうながしていくとしています。
しかし、当局任せの姿勢ではいけません。その借金は返すことができるのか――。銀行の審査に委ねるのではなく、自分自身で冷静にライフタイムのマネー計画を立てて、判断する必要があるのではないでしょうか。