はじめに

「金融庁はFX(外国為替証拠金取引)のレバレッジを10倍に規制する方針」――。そんな報道が昨年秋頃から出始めています。

レバレッジとは投資家が預けたお金(証拠金)の何倍まで取引できるかを示したもので、現在の上限は25倍に設定されています。しかし、FXの市場規模が拡大するにつれ、為替相場が急激に変動した場合、投資家やFX業者が想定以上の損失を抱えるリスクも高まっています。

こうした動きを踏まえて、金融庁は「店頭FX業者の決済リスクへの対応に関する有識者検討会」を設置。2月13日にその第1回会合が開かれました。初回の検討会では、どんなことが議論されたのでしょうか。


市場規模は6年で2.5倍に拡大

午前10時30分から金融庁内の特別会議室で開かれた会合には、座長を務める慶應義塾大学の池尾和人教授をはじめ、東京駿河台法律事務所の上柳敏郎弁護士、学習院大学の勝尾裕子教授ら8人の有識者が出席しました。

そのほか、三菱東京UFJ銀行の星野昭・金融市場部長、金融先物取引業協会の山崎哲夫・事務局長ら8人の実務担当者がオブザーバーとして参加。金融機関関係者とおぼしき大勢の傍聴者が見守る中で開催されました。

会の冒頭で、金融庁の中島淳一審議官があいさつをした後、事務局を務める金融庁がFX規制をめぐるこれまでの経緯や店頭FX業者が抱えているリスク、店頭FX取引の市場規模、主要通貨別の為替リスクなどについて説明しました。

このうち、市場規模については、初めてレバレッジ規制が導入された2010年度の2,000兆円程度から、2016年度は5,000兆円程度まで拡大。上場デリバティブ取引などを抑えて、類似する金融取引と比べても最大の取引高となっている現状が紹介されました。

こうした状況下で店頭FX業者の決済リスク管理を不十分なままにしておけば、投資家やカバー取引(FX業者がリスク回避のため、受けた注文と同等の注文を他の金融機関に対して行うこと)先に大きな影響が起こりえます。さらに、その先にある外国為替市場や金融システムにも影響を及ぼす可能性がある、というのが金融庁側の問題意識です。

カバー可能なレバレッジ平均は8.7倍

こうした金融庁の一連の説明の後に、有識者からの質問や提案がありました。序盤で質問が集中したのが、主要通貨別の為替リスクについてです。

金融庁は説明資料の中で、1985年以降の最大の相場変動をカバーできるレバレッジの水準について、通貨ペアごとに試算したものを公表。ユーロ/米ドルで28.5倍というペアもありましたが、主要10ペアの単純平均は8.7倍となりました。昨秋来報道されている「10倍」に近い値です。

これに対して、有識者からは「どの通貨ペアが取引シェアでは多いのか。取引シェアでウエートをかけると、平均値はどうなるのか」といった質問が出ました。その回答として、オブザーバーから「ドル円のシェアが高く、ピーク時はFX取引全体の8割程度に達する」などの説明がなされました。

続いて議論になったのは、2016年から実施されているFX業者に対するストレステストについて。有識者からは「具体的にどのようなテストで、どのくらいの頻度で実施しているのか」といった質問がありました。

これに対し、オブザーバーは「極端なシナリオを作って実施しています。実施したのは2016年と2017年の2回。FX業者からは『リスク管理の重要性への認識が高まった』というコメントがありました」と返答しました。

賭博好きの受け皿になっている?

中盤以降に盛り上がりを見せたのは、検討会の議論の方向性に関するものでした。ある有識者からは「リスク管理の手段として、レバレッジの引き下げなどが選択肢として考えられる。全体としてのリスク管理の制度設計の方向性はどう考えればいいのか」といった質問がありました。

この点については、池尾座長が一般論と前置きしたうえで、「業者自身の努力、自主規制機関の役割、法的規定の枠組みという3層構造。必ずしも、すべてを法規制でやるのではなく、コンプライアンスをしっかりしてもらい、自主規制で対応できれば、それに越したことはない」と返しました。

さらに、他の有識者からは
「金融行政の目標として、持続的成長と安定的な資産形成がある。後者との関係から、FXがどういう役割を果たしうるのかを念頭に置いて議論すべき」
「FXは最終的には外国為替市場に流動性を提供する。そのためには投機的な取引もある程度認める必要がある。そういうことも念頭に置いて議論していくべき」
「日本人は元来、賭博が好きで、FXがそうしたものの受け皿になっている。そこを規制すれば、他に移るのではないか。そういうことも考慮しながら、制度設計していく必要がある」
といった声が上がりました。

最後に意見を求められたオブザーバーからは、「今回の取り組みは、大きな潜在リスクがあるからやっているのだと思う。どんなリスクなのか、わかる形で議論を進めていただきたい」との意見が出ました。

第1回ということもあり、現状認識のすり合わせと課題の洗い出しに終始した感があった有識者検討会。本格的な議論が始まるのは次回以降となりそうです。

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