はじめに

最近、記憶に新しいのが、レオナルド・ダビンチの作品がクリスティーズのオークションで4億5000万ドル(約507億円)で落札されたニュース。これを落札したのはサウジアラビアのバデル王子でした。(注:サイトによっては落札者がアブダビ文化観光局になっています)そして、この「サルバトール・ムンディ」(救世主)と呼ばれる作品が、アラブ首長国連邦のアブダビにあるルーブル美術館の別館「ルーブル・アブダビ」に所蔵されるようです。

このレオナルド・ダビンチの作品は、あのイスラム教/キリスト教の宗教の壁も超え、歴史上、世界でもっとも高額な絵画取引をされた作品になりました。しかし、本連載は「現代アートの愉しみ方」なのになぜレオナルドなのか、と思われる方もいらっしゃるかもしれません。当然、それには理由があります。実はクリスティーズでは、この作品をコンテンポラリーアートのセクションで売ったのです。


現代アートの市場

レオナルドの前後でオークションにかけられていたのは、ルイーズ・ブルジョアやキース・ヘリング、マーク・ロスコ、アンディ・ウォーホルなど、戦後の代表的なアーティストたちの作品でした。今までなら、レオナルド・ダビンチのような時代の作品ならオールドマスターといったセクションに出るのが通例なのですが、「レオナルドはまったく古くない。現代にも、その魅力を保ち続けている!」というメインの理由とともに、現代アートのオークションが今一番アクティブで、落札する可能性のある参加者たちがいるということも、一つの理由でしょう。

もしくは、レオナルドを狙ってくるお金持ちに現代アートの魅力を知らせる機会を創出したかったのかもしれません。現代アートの作品も何十億というプライスで落札されていきました。

現代アートとして印象派を購入していた日本

浮世とはかけ離れた夢のような世界の話で、“自分たちの人生とは関係ない”世界をお見せしたかもしれません。しかし、私が知ってもらいたかったのは、美術作品がこんなにも世界中の人たち――それも、宗教も文化環境も時代も超えて違う人たちを魅了しているという事実です。レオナルドを見にパリに行く、ミラノに行く、という行く先の一つに、アブダビに行くというのも加わったわけです。

違和感があるかもしれませんが、日本でのコレクションも見てみてください。いうまでもなく、日本のものだけでなく、国立西洋美術館にはルネサンスからの驚くような西欧の美術品があり、印象派に至っては多くの公立の美術館で作品を見ることができます。

日本人は印象派が好きだ、とよく揶揄されます。最近のルノワール展もゴッホ展も大勢の入場者でした。でもどちらかというと日本は、印象派を同時代(コンテンポラリー)のアートとして購入していった歴史があります。西欧を除く地域としてはとても早く、コレクションをした国なのです。

今、カタールなどの中東の国々が、マーケットに出てきたセザンヌやゴーギャンの名作を300億円近くの価格で購入しています。中国の人たちもやはり印象派は好きです。世界中の人たちが、好きなのです。ロシアのプーシキン美術館でも多くの名作がありました。エルミタージュ美術館にもマチスの傑作がすごくあるなど、美術作品は世界中をどんどん移動していきます。

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