はじめに
読者のみなさんからいただいた家計や保険、ローンなど、お金の悩みにプロのファイナンシャルプランナーが答えるFPの家計相談シリーズ。今回は野瀬大樹氏がお答えします。
実家を相続しました。実家の土地を入手したのは数十年以上前です。実家は今、両親が住んでおり、いずれ売る予定です。私は購入した別のマンションに住んでいます。実家を売る際に、移り住んでから売ることによって、居住物件の軽減税率の特例を受けたいと思っています。
前述の通り、既に自分用の居住物件は持っており、買い換えの特例を受けるつもりはありません。このとき、どのような条件だと軽減税率が適用されるのでしょうか?
自分が住んでいるマンションの大規模リフォームのために実家に移り住み、住民票も移して2~3ヵ月実家に住む程度でよいのか、それとも、実家に数年住まないと認められないのか。基準があれば教えてください。
(30代後半 独身 男性)
野瀬 :相続税の負担は平成27年1月に改正され、5,000万円までであった基礎控除が3,000万円となり、法定相続人一人あたりの基礎控除額も1,000万円から600万円へと引き下げられました。
高額な相続税が払えないときのための特例
そんな中でも、少しだけ税負担が軽くなる可能性があるのが「小規模宅地等の特例」になります。
たとえば、親子で仲良く一つの家に住んでいた場合、親が亡くなった後に思い出たっぷりのその家に住み続けたいというのは自然な感情です。
しかし、その家の評価額が高いために相続税も大きな金額になり、預貯金がなかったために泣く泣く家を手放す……そんな悲しいことが起きないようにするための配慮として存在するのが、この「小規模宅地等の特例」です。
具体的には、これに該当するとみなされた場合に330平米を限度として、その評価額を80%も減額することができます。80%!この効果がいかに大きいかがわかると思います。
「小規模宅地等の特例」の条件
この特例は土地の種類や用途によって、条件が細かく規定されています。この判断は税理士でも間違える人がいるくらい複雑なものですので注意が必要です。
相談者の方の場合の条件を整理します。
・ご両親:住宅保有
・相談者:別のマンションに居住
そして、国税庁のHPにある本特例の条件は以下になります。
(1)配偶者:要件なし
(2)同居親族:相続時から相続税申告期限まで、その家に居住し、かつ保有する
(3)非同居親族:
1.亡くなった人に配偶者がいない
2.亡くなった人の家に住んでいた親族に相続人がいない
3.相続3年内に自分またはその配偶者所有の家に居住したことがない
4.相続対象の家を相続税の申告期限まで有している
5.相続時に日本に住所あり、又は、日本国籍を有している
仮にお父様がお亡くなりになられると、今のままでは相談者の方は(3)に該当しますので、配偶者がいる以上、(1)の条件は満たせず、本特例は使えないことになります。そのためこの特例を使うためには「同居」という要件をつける必要があるのです。
「同居」には何ヶ月必要か?
さて、ようやく本題です。この「同居」は、相続前の期間がどれくらい必要なのでしょうか?
法令上は特に期限は定められていません。「○○ヶ月」などと定めると、税金を軽くするためにその期間だけ住む人が現れるからです。そのため、実務上は期間が長い・短いというよりは、「同居の実態があったか」で判断されることになります。実際に居住し、生活し、そこから通勤通学することが必要になります。
形式的な住民票などは関係ありません。まずは、この「実態」をきちんと作るようにしてください。
そして期間ですが、この「実態」という点を考えると、数か月では少し弱い気がします。実際に税務署から同居の実態を問われた時の反論材料としては正直2~3年ぐらいはほしいところです。質問者の方の場合、実際に同居するご予定なのですから、この期間さえクリアすれば本特例を適用するハードルは高くないように見受けられます。
また嫁姑問題上、同居が難しいという場合は、二世帯住宅でも本特例の適用を受けることはできますので、リフォームも含めてご検討してみてはいかがでしょうか?