はじめに
ベトナム株式市場の代表的な株価指数のVN指数が、史上最高値に迫る動きとなっています(3月19日現在)。2017年にVN指数の年間上昇率は48%となり、ベトナムは世界で最も上昇した株式市場の1つとなりましたが、今年もその勢いが持続しています。
2月半ばに、米国発の世界同時株安で一時的に大きく調整したものの、戻りの鈍い他市場を尻目に急回復。2007年につけた史上最高値も射程圏内に入ってきました。
しかし、ベトナムといえば、VN指数が2006年の年初から2007年3月までのわずか15ヵ月間で、305.28ポイントから1,170.67ポイントまで4倍弱上昇し、その後2009年2月の235.50ポイントまで、23ヵ月間で5分の1となった記憶がよみがえります。
今回は、このようなことはないのでしょうか。
なぜ11年前に急騰したのか
2007年のベトナムの株高の背景には、空前の新興国投資ブームがありました。2001年に米投資銀行のゴールドマン・サックスが、当時著しい経済発展を遂げていたブラジル、ロシア、インド、中国を「BRICs」と名付けたことをきっかけに、世界で新興国投資ブームが巻き起こっていました。
2000年代中ごろには、ポスト「BRICs」として「VISTA」や「NEXT11」などの造語も生み出され、ベトナム株に対する注目度も高まっていきました。加えて、ベトナムは産油国であるため国際商品市況高や、2007年1月の世界貿易機関(WTO)への加盟などもベトナムへの資金流入を加速させたのです。
しかし、当時ベトナム株式市場の上場企業数は250社、時価総額も495兆ドン(当時の為替レート換算で約3.5兆円)と非常に規模が小さく、少ない資金流入で株価が急騰しやすい状況でした。最終的には日本からの投資信託などの資金が株高を演出したと見られており、ブームに乗せられた株高の局面が強かったといえるでしょう。
国策が演出する今回の株高
では、今回の株高の背景には何があるのでしょうか。
近年、ベトナム政府は国営企業の民営化を推進しており、国営企業数は1990年の1万2,000社から2016年の700社まで減少しました。さらに政府は2020年までに400社に上る政府保有株の売却を計画しています。
これに伴い、2016年以降、ビール最大手のサイゴンビールや、石油ディーラー最大手のペトロリメックスなどの国営企業が上場。格安航空最大手のベトジェット航空や、ショッピングセンター開発最大手のビンコム・リテールなど、民間企業の大型上場とともに市場の話題を呼んでいます。
一般に日本のような先進国の株式市場では、相次ぐ大型上場が需給悪化懸念を招き相場の重石になる傾向があります。しかし、ベトナムでは経済の効率化につながると好感され、海外マネーを呼び込んでいます。
また、従来、ベトナムにおいて外国人投資家には、主に銀行などで30%、その他の企業で49%の株式保有制限がありましたが、2015年の法改正により一部を除き制限が撤廃されました。各企業は外資保有制限の緩和・撤廃を決定後、取締役会・株主総会の承認と当局の認可を得られれば、各企業の判断で変更することが可能になったのです。
実際に外資制限緩和に踏み切った大型企業はまだわずかであるものの、時価総額が最大のベトナム乳業(ビナミルク)が制限撤廃を実施した2016年7月以降、徐々に動き出しています。
市場規模が小さなベトナムでは、これまで大型優良株ほど外資保有制限の上限に達し、流動性の重石になってきました。外資制限の緩和は海外マネーの流入を招き、長期的な相場押し上げ要因となることが期待されます。
伸びしろはまだまだ十分?
さらに、市場格付け引き上げへの期待も高まりつつあります。世界中の機関投資家が資産運用のベンチマークとして広く利用しているMSCI指数において、向こう1~2年のうちにベトナムの市場格付けが現行の「フロンティア」から「エマージング」へと格上げされる可能性があり、さらなる資金流入が期待されそうです。
このように、今回の株高の原動力は国営企業の民営化などに伴う大型企業の上場と、外資制限の緩和であり、株高は制度改革によるおおむね実体を伴った上昇と考えています。
3月15日時点で、ベトナム株式市場の上場企業数は736社、時価総額も3,330兆ドン(約15兆円)と、時価総額は2007年に比べ7倍近く増加したとはいえ、まだ日本のトヨタ自動車の時価総額の3分の2程度しかありません。今後、制度改革の進展と経済成長を追い風に、時価総額の一段の拡大が見込まれます。
ベトナム株式市場は、昨年来の急ピッチな値上がりの反動から、短期的に株価が大きく変動する可能性があるものの、中長期的には外国人投資家の注目度が高い、大型優良株を中心に上値が期待できるのではないでしょうか。
(文:アイザワ証券 投資リサーチセンター 北野ちぐさ)