はじめに
年度末である3月末は、多くの銘柄で権利付き最終日を迎えます。東証1部上場銘柄のうち、3月末決算の銘柄は1,473銘柄と、全体の7割程度を占めています。この時期、個人投資家を中心に人気を集める売買手法として、「配当金狙いの買い」があります。
「配当金分、値下がりする」は本当か
ある会社が、1株当たり100円の配当金を支払った場合、理論的に言うと、株価は権利付き最終日から権利落ち日にかけて、配当分である100円値下がりする計算になります。「ある会社の総価値から負債を引いたものが株主の持ち分」という前提に立てば、配当として支払わずに企業に残る内部留保としても、その価値は株主のものであるため、結果としてフラットになると考えられるのです。
では、実際の株価の値動きもそのようになっているのでしょうか。まずは日経平均株価の値動きを検証してみましょう。
2017年3月末の権利付き最終日における日経平均株価の配当金相当額は、好調な企業業績もあり、118円となっていました。一方、実際の日経平均の値動きは、権利付き最終日の1万9,203円から権利落ち日の1万9,217円に、15円の値上がりとなっています。
同様に計算した2013年以降の日経平均の値動きと、配当金相当額をまとめたものが下表です。配当金を考慮した実質的な値動きを計算すると、多くの年で値上がりとなっています。
次に個別銘柄の値動きで検証してみます。3月末決算銘柄のうち、2017年3月末に配当落ちを迎えた銘柄は1,384銘柄ありました。これらの銘柄について、配当金を考慮した実質的な値動きを計算してみると、全体の約64%にあたる885銘柄が値上がりとなっていました。
同様に2013年以降の実質的な値上がりした銘柄の割合を計算してみると、下表のように、多くの年で50%を超える結果となっています。
理論通りの値動きとならない理由は?
なぜ、このような値動きとなるのでしょうか。
まず、個人投資家の売買動向から考えてみると、個人投資家は「値下がりしたら買い、値上がりしたら売り」という「逆張り投資」を好む傾向があります。松井証券店内の売買データなどを見ても、権利落ち日の寄り付きに配当分株価が値下がりすると、多くの場合、株価の下落を好感した買いが入るため、株価を下支えします。
次に、機関投資家の配当金への考え方を調査してみると、投資するうえで重視するポイントである事がわかります。
「平成 28 年度 生命保険協会調査」によると、「経営目標として重視すべき指標」としては、1位に「ROE(株主資本利益率)の向上」、2位に「配当性向(配当÷当期利益)の向上」が挙げられています。
理由については諸説ありますが、企業が増配をするという事は、経営者に今後の利益増に対して強い自信があるというシグナルであるという考え方や、経営者が潤沢な余剰資金を抱えると無駄な投資などを行い株主の価値を損ねてしまうため、これを避ける事ができる、といった考え方などがあります。
中長期視点で高配当銘柄を狙う好機
このように、個人投資家、機関投資家ともに多くの投資家は高配当銘柄を好感する傾向があるのです。
3月の日経平均の値動きを見ると、米国のトランプ政権の保護主義的な通商に対する懸念や、国内でも安倍晋三政権に対する支持率の低下などにより、海外投資家は日本株に対する売り姿勢を強めています。また、今の緩和的な金融政策がいつまでも続けられるのか、という点に疑義が生じており、不安定な値動きが続いています。
このように不透明感が強いため、株価が大きく上下していますが、見方を変えれば、中長期的な視点で高配当銘柄を安く買い付けるチャンスであるともいえます。2018年の3月末権利付き最終日は3月27日(火)なので、優良な高配当銘柄を探してみてはいかがでしょうか。
(文:松井証券 シニアマーケットアナリスト 窪田朋一郎)