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この4月に「変わり種ビール」の発売が相次ぐワケ

サッポロは“果皮の苦み”で勝負

4月から新年度に入り、さまざまな新制度や新サービスがスタートしています。その中の1つに、瓶ビールなど業務用ビールの値上げがあります。

ビール好きには何とも残念な価格改定ですが、一方でビールを飲んでみたかったけれど、何だか手を出しにくかった人には朗報となるかもしれない動きも見られます。主要なビールメーカーがこぞって「変わり種ビール」の発売を予定しているのです。

なぜ各社が相次いで新種のビールを売り出すのでしょうか。その背景をひも解いてみます。


先陣を切るのは“かつお節ビール”

4月に続々と発売される、変わり種ビール。先陣を切るのは、1日にヤッホーフルーイングから発売になった「SORRY UMAMI IPA」です。この商品は海外専用ビールとして製造されたもので、2016年秋に日本でも数量限定で販売されていました。

その特徴は、かつお節のうまみ成分を活用することで、酵母を活性化させている点。これによって、ホップの香りが一層引き立っているといいます。

続いて10日には、サントリーがオレンジピール(果皮)とコリアンダーシードを使用した「海の向こうのビアレシピ」を発売。17日には、アサヒビールがレモングラスを活用して穀物香やアルコール臭を抑えた「アサヒ グランマイルド」を、キリンビールがレモンピールを使用した「グランドキリン ひこうき雲と私 レモン篇」を売り出す予定です。

そして24日には、サッポロビール傘下のジャパンプレミアムブリューが、グレープフルーツとオレンジの果皮を使った「Innovative Brewer ビアチェッロ」を発売します。いずれも、従来ならビールの原料として認められていなかった副原料を使っているのが特徴です。

ビールの定義が4月から変更に

「従来なら」と表現したのは、この4月にあった、ある法律改正と関係があるからです。4月1日から酒税法が改正され、ビールの定義が変更になりました。

これまでは麦芽の使用比率が67%未満だったり、果実や香辛料など、副原料として定められたもの以外を使用した場合には、「発泡酒」として定義されていました。これが4月1日から、麦芽の使用比率が50%以上であれば、副原料として果実や香辛料を使ったものでも、「ビール」と定義されるようになったのです。

発泡酒はビールに劣るお酒というイメージがあるものの、税率はビールと同じ。ただ、クラフトビールや輸入ビールの中には、麦芽の使用比率がわずかに67%に届いていなかったり、規定外の副原料を使っているため、発泡酒として表記しなければいけない商品もありました。

イメージは低下するのに、税負担は大きい。こうしたビール業界の不満を受けて、国はこれまでバラバラだったビール、発泡酒、第3のビールに対する課税率を段階的に見直し、2026年に一本化させる方針です。今回のビールの定義見直しは、こうした流れの中に位置づけられています。

こうした事情もあり、大手各社が4月に相次いで変わり種ビールを売り出し始めたとみられます。しかし、ジャパンプレミアムブリューの新井健司マスターブリュワーは、必ずしも法改正だけが理由ではない、と語ります。

法改正だけが理由ではない

実際、ビアチェッロの開発が始まったのは、今から2年ほど前。「使えるようになった原料を使おうという考えはありませんでした。むしろ、われわれの抱えている課題を解決するために、新しい原料を使おうという発想でした」(新井さん)。

新井さんの言う「課題」とは、国内のビール需要の漸減です。ビール大手5社の2017年のビール類出荷量は前年比2.6%減の4億0,407万ケース(1ケース=大瓶20本)。13年連続で過去最低を更新しています。

ネックになっていると新井さんが考えたのは、ビール特有の苦みでした。若者や女性で、こうした傾向が顕著だといいます。そこで業界としては、2つの対策を講じてきました。

1つが、コリアンダーシードなどで香りづけを施し、苦みを抑えて飲みやすくするという方法。もう1つが、ビアカクテルなどのように、甘さを付けることで苦みをマスキングする方法です。しかし、甘いビールを出しても、実際に顧客は手に取ってくれません。

「ビールなので、やはり苦みは欲しいのではないか。であれば、ホップ由来のビール特有の苦みを別の苦みに変えてあげれば、手に取ってもらいやすいビールになるのではないか、という仮説を立てました」(新井さん)

そこでヒントになったのが、レモンの果皮をアルコールに浸漬させ、砂糖などで味付けした、イタリア発祥のレモン・リキュール「リモンチェッロ」でした。「果皮を浸漬させるという概念をビールと結び付けたらどうなるか」というのが発想の原点でした。

ビアチェッロという商品名は、ビールとリモンチェッロを組み合わせたもの。ホップに加えて、グレープフルーツとオレンジの果皮を麦汁に浸漬させ、ジューシーでありながらビターな味わいを作り出したといいます。

スッと消えるシャープな苦み

従来の製法で作られたビールは、ベタッと張り付くような、渋みに近い苦みが特徴です。一方、ビアチェッロは果皮由来の、スッと苦くなるけれど、すぐに消えていく、シャープな苦み。「何も言われずに飲むとビールですが、言われてみると果皮の苦みがわかっていただけると思います」(新井さん)。

これまでも、オレンジの果皮はよくビールに使われていましたが、苦みが少なく、主に香りを引き出す目的で使われていました。でも、これだけだと甘いビールになってしまいます。若者や女性というビール離れが顕著な層に訴求するためには、ジューシー感が欲しいところでした。

新井さんはライムやゆず、レモンなど、複数の原料を試しました。そして、1年をかけて組み合わせを試行錯誤した結果、グレープフルーツにたどり着いたといいます。「ビアチェッロをきっかけにビールに親しんでもらい、将来的には普通のビールを飲んでいただけたら」と、新井さんは力を込めます。

当面は3大都市圏を中心に展開していくというビアチェッロ。「他の食品が持っている価値を付け加えることで、新しいビールの価値を作っていきます」と、新井さんは第2、第3の変わり種ビールの夢を描きます。

長期低落傾向が続いているビール市場ですが、法制度の変更を機に、反転拡大に向かうのでしょうか。新定義で生まれた「変わり種ビール」の売れ行きが、市場の今後を左右しそうです。

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