はじめに

足元、米国の保護主義政策によって、貿易摩擦懸念が高まっています。しかし、世界経済の密接なつながりを鑑みると、貿易戦争にまで発展する可能性は低いのではないでしょうか。

紆余曲折はあるとみられますが、基本的に世界経済が順調に成長するという見通しは継続と考えています。それに伴い、商取引も拡大をしていくでしょう。中でも急成長をみせるEコマース(EC、電子商取引)市場は、今後も前年比2ケタの高い成長が続くと予想されます。

背景には、「スマートフォンなどのデバイスの普及」「物流システムの充実」「決済機能多様化への対応」「オンラインショッピングのインフラ整備」などがあると考えられます。したがって、Eコマースの拡大は単なる消費行動の変化の表れというだけでなく、世の中の変革を象徴する動きであるともいえるでしょう。

その変革を先導している企業の1つが米国のアマゾン・ドット・コムです。ほかにも、ヒト、カネ、モノ(物流)を巻き込んだ経済圏をつくる巨大企業が米国や中国などで多数出てきています。これらの企業が及ぼす影響について、EC拡大という観点から見てみたいと思います。


小売業界や物流業界にはマイナス?

米国で、アマゾンを中心とするネット販売の成長によって、まず思い浮かぶのが、大手書籍チェーンや家電流通大手、玩具販売大手などの経営破たん、相次ぐ小売り大手の閉店といった事象ではないでしょうか。こうした苦戦を強いられている旧来型の小売業界の中でも、成長分野のEC市場を取り込もうとする動きはあります。

実際、米小売り最大手のウォルマートは、2016年にネット通販会社ジェット・ドット・コムを30億ドルで買収したほか、2017年8月には米グーグルとネット通販事業での提携を発表するなど、成長分野への展開を図ろうとしています。

一方、ECの拡大がデメリットとみられている業界の代表が物流業界です。米国における物流大手といえば、フェデックスやユナイテッド・パーセル・サービス(UPS)が挙げられます。

ECを手掛けるアマゾン自体が配送サービスを強化することによる競合リスクなどはありますが、数量増効果は期待できそうです。また、フェデックスの米国内配送単価は、2016年以降、着実に上昇しており、数量拡大効果が業績に結び付きやすい構造といえます。

日本の物流においても、アマゾンの影響は顕著です。ネット通販の荷物の急拡大などに耐えきれなくなったヤマト運輸(ヤマトホールディングス傘下)は、料金値上げに踏み切り、2017年10~12月期にその効果が出ています。

物流業界にとって急激な物量の増加は、それに対応するための人件費や投資などのコストが先立つため、マイナスにとらえられがちです。しかし、需要の拡大は、中長期でみれば、大手物流業者が築いてきた物流網の強みを生かせるチャンスととらえるべきではないでしょうか。

物量の拡大はロボット業界に追い風

ECの拡大に伴う物量の増加によって、仕分け施設や倉庫の増設が必要になっています。事実、米国では、物流業者のみならず、小売業者なども巻き込んだ形で商業用倉庫の建設が進んでおり、2017年の投資額は2012年比で約4倍に膨らみました。

物量の増加に加えて、スピード配達の要求が高まっていることも投資増加の背景にあります。よって、物流システムの自動化ニーズは一段と高まっており、ロボット業界にも恩恵が及んでいるといえます。

ロボットに取り付け、バーコードの読み取りによって荷物を仕分ける識別製品を提供している米コグネックスでは、全社売り上げの約15%を占める物流向け売上高(3Dビジョン製品も含む)は年間50%超増加しており、今後もこの高い伸びが続くとみています。

モノが動けばカネも動く

EC拡大がもたらす物量拡大は、決済市場の拡大も意味しています。現金などによる決済から電子決済へのチャネル移行の流れと相まって、同市場は大きく成長するとみられます。

カード決済市場はグローバルで見ても、ビザやマスターカード、アメリカン・エキスプレス、中国銀聯などによる寡占市場です。ブランド力などを鑑みると新規参入は容易ではなく、既存事業者が市場の拡大メリットを享受できると考えられます。

カード以外の電子決済市場も今後市場の拡大できる分野でしょう。中でも、米ペイパルは稼働会員数2.27 億人(2017 年10~12 月期)を有する電子決済サービス大手であり、今後、成長力の高いECサイトの決済を担うことが可能になる点なども魅力です。

また、急速にキャッシュレス化が進行している中国では、アリババ・グループのスマホ決済サービス「アリペイ」とテンセントの「ウィチャットペイ」がこの流れを先導しています。中国では、2013 年7 月に電子決済企業による清算業務への参入規制が緩和されたことを契機に、モバイル決済が急拡大中であり、今後の成長にも期待がかかります。

(文:大和証券 投資情報部 花岡幸子)

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