はじめに
2人の参考人を招集
今回の会合には2人の参考人が招集されました。1人は、金融先物取引業協会のアドバイザーなどとしても活動してきた、神戸大学大学院の岩壷健太郎教授。もう1人は、日本弁護士連合会の消費者問題対策委員会の副委員長を務める、あおい法律事務所の荒井哲朗弁護士です。
会合の冒頭では、これまでの議論で宿題となっていた点について、事務局を務める金融庁のほか、金融先物取引業協会や店頭FX業者から簡単な説明がなされました。その後、岩壷教授が国内のFX取引に関する持論を展開しました。
その中で、FX取引が持つ、3つの社会経済的機能について言及。1つは、海外資産の購入などにおける為替リスクのヘッジ機能。2つ目が価格発見機能。そして、説明に最も長い時間がかけられた3つ目が、資産形成機能です。
岩壷教授は、金融先物取引業協会がホームページ上に公開している証拠金増減口座比率と、日本証券業協会が実施した「個人投資家の証券投資に関する意識調査報告書」の結果を比較。株式とFXでは儲けている人の割合に大差はなく、FXは個人投資家の資産形成に寄与する金融商品だと説明しました。
規制強化は高リスク取引シフトを招く
そのうえで、FX取引が「ゼロサムなので資産形成に寄与しない」と捉えられがちな背景として、保有期間と投資収益率の関係を解説。店頭FX口座の約57%がスキャル(ポジション保有期間が1時間未満)であり、保有期間が短期であるほど収益率、損益額ともに低い傾向があると指摘しました。
ただ、収益率上位10%の投資家を抽出すると、短期投資の口座割合が高まる傾向も見られることから、短期投資は収益のブレが大きく、高度な投資スキルの有無が投資家のパフォーマンスを大きく左右することを説明しました。
そして、仮にFXにレバレッジ規制を導入すれば、国内の店頭FXの金融商品としての魅力が薄れ、短期の投資家は海外FXや仮想通貨など、よりリスクの高い取引にシフトしていく可能性を指摘。さらに、金融システムの安定化を目的とするならば、レバレッジ規制ではなく、自己資本や保険、モニタリングで対応可能だと分析しました。
欧州で導入が検討されている「ネガティブ・バランス・プロテクション」など、未収金リスクをなくすために規制を強化しすぎると、業者はロスカットを仕向けて投資家にリスクを転嫁するようになる一方、投資家も未収金を払わなくて済むので、モラルハザードが起きかねないと結論づけました。
顧客の損は業者の利益?
続いて説明に立ったのが、荒井弁護士です。冒頭で「FX取引は健全な金融商品としては発展途上にある」と述べ、取引記録が顧客の目にさらされないため、取引の不透明性が多く残されていると指摘しました。
そのうえで、過去の事例などを紹介。投資家がリスクを最小化するため、通常取引と反対取引を同時に発注した際、注文が約定しない間にロスカットの仕組みが走ってしまい、約定処理が完了するよりも前にロスカット処理が進んで、損失を被ったケースなど、システムに不備を抱える業者が多い点に触れました。
さらに、FX取引は基本的に相対取引で、客と業者では利害が対立するため、顧客の損を自社の利益にするケースが見受けられると、持論を展開。「米国の雇用統計の発表時に、瞬間的にスプレッドを急激に拡大させる業者もいる」と糾弾しました。
ここまでは岩壷教授と正反対の説明でしたが、結論としては「決済リスクの関係でレバレッジ規制を強化すると、日本で登録していない海外業者に複数の口座を開いて、レバレッジの高いところに移る懸念がある」と、同様の着地点となりました。
検討会の趣旨とは何なのか
有識者検討会のメンバーからの質疑でも、この2人に対する質問が多く聞かれました。
複数のメンバーからは「検討会は決済リスクをテーマにしているが、店頭FXの公正さは大丈夫なのか、疑問に感じました。議論の中に入れていただきたい」「顧客保護の観点から疑問があるという意見が出ています。議論の方向性について、整理していただきたい」といった声が上がりました。
ただし、今回の検討会はあくまでも、相場急変時に店頭FX業者の決済リスクが顕在化し、世界の金融システムに深刻な影響を及ぼす事態を避けるための枠組みづくりを念頭に置いているはず。実際、議長を務める慶應義塾大学の池尾和人教授も「この検討会は決済リスクへの対応がテーマです」と、釘をさす場面がみられました。
傍聴者からは「シンプレクスなど、システム業者を呼んで意見を聞いたほうが、検討会の趣旨に沿った議論になるのではないか」と、議論の方向性をいぶかしむ声が聞かれました。
有識者メンバーの間でも検討会の目的に対して混乱がみられる、これまでの議論。次回の第4回会合では、早急な論点整理が必要となりそうです。