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既存小売りはネット通販に勝ち目があるのか

アマゾン配送料値上げでどうなる?

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アマゾンジャパンが4月4日、配送料体系の変更を発表しました。アマゾン以外のネット通販業者にも送料引き上げの動きが広がっています。

顧客からみるとトータルの支払額が増えることになりますが、送料引き上げの動きが続いた場合、これまではネット通販に押され気味だった既存の小売業界が息を吹き返すことにつながるのでしょうか。


背景は運送業者の値上げ

送料値上げの背景は運送業者の料金引き上げです。景気拡大を背景にトラック輸送量は増え続けており、宅配便もネット通販やふるさと納税の拡大などを背景に増加が続いています。しかし、人手不足でうまく人が集まらなくなり、十分な要員を確保するために給与水準や時給単価の引き上げを迫られているのです。

特に年末年始などの忙しい時には運ぶ荷物が集中するのですが、正社員に特別手当を出したり、時給を大幅に引き上げて短期アルバイトを集めないと運びきれなくなっているようです。今年の春も引っ越し業者が人手不足で、通常期の数倍の料金を提示したり、そもそも引っ越し手配ができず、「引っ越し難民」という言葉が話題になりました。

厚生労働省の統計データによると、2018年2月の有効求人倍率は全体の平均は1.5倍ですが、「自動車運転の職業」だと3倍を超えていて、「運輸・郵便」も4倍を超えています。

今週発表された日銀短観の雇用人員判断DI(過剰-不足)でも、全体がマイナス34と人手不足感が強い水準ですが、「運輸・郵便」はマイナス49と、もっとも悪い「宿泊・飲食サービス」(マイナス64)に次ぐ2番目に人手不足の業界となっています。

値上げしても儲からない運送業界

運送業界では、人手不足が人件費やさまざまなコスト増につながっています。宅配便最大手のヤマトホールディングスは、前期(2018年3月期)の前半に赤字に陥りました。運送料金の値上げが浸透し始めた第3四半期(2017年12月期)は黒字を回復しましたが、慢性的な人手不足は解決していません。

同じように人手不足で悩む建設業や飲食業、小売業などとの人材確保合戦も続きそうです。結果として、今後も給与水準引き上げを迫られる可能性は高く、料金を引き上げても運送業界の利益水準改善につながらない可能性もありそうです。

配送料上昇は続く→ネット同士の競争も

ということは、運送業界からの料金引き上げ要請は今後も続く可能性が高いということになります。しかし、ネット通販業者としても競合他社より高い送料にすれば顧客を奪われるかもしれません。

中には、自社の利益を削り、送料を低めに設定する業者も出てくるでしょう。販売価格や品ぞろえなどのこれまでの差別化要因に加えて、送料水準も含めたネット業者同士の争いも激しくなりそうです。

アマゾンジャパンは、今回の配送料見直しの中で、配送料無料のプライム会員は送料・会費ともに据え置いています。プライム会員に誘導することで顧客を囲い込み、プライム会員の消費額を増やすことも狙っているようです。

ある小売り経営者「ネット通販には負けない」

昨年、あるドラッグストアの決算説明会に出席した際、とても興味深い話を聞きました。経営トップがアマゾンや楽天などのネット通販は敵ではないと明言したのです。

彼の考えでは、ネット通販は顧客に届けるのにどうしても個別商品配送なので、運送コストが高止まりするはずだと言います。一方でチェーン店舗は、専用の物流ネットワークを通じて計画的にまとめて商品補充するため、確実に効率がよいはずだと言うのです。

そして、ネット通販が絶対勝てないのは、商品を手に入れる速さだそうです。ネット注文だと、注文してから届くまでにかなりの時間がかかります。一方、店舗にはそこに既に商品が置いてあります。

ドラッグストアやコンビニ、スーパーなどは、ほとんどの消費者にとって徒歩数分圏にあるため、買うことを決断してから数分以内に商品が手に入ります。だから、ネット通販にはライバルにならないというわけです。

この話には、既存店舗の維持費用や人件費が抜けています。ネット通販の大規模物流倉庫と比較すると、店舗運営コストでは既存小売店舗の方が不利かもしれません。しかし、個別配送のコストの高さを加味すると、必ずしもネット通販が効率的とは言えないかもしれませんし、「すぐ手に入る」という点では店舗が圧倒的に優位なのは間違いなさそうです。

そう考えてみると、「まとめ買い」ならネットでよいが、「今すぐ1つだけ欲しい」場合はネットより近所の店舗の方が便利そうです。さらに言うと、野菜や魚など実物を見て選びたいものや、試着が必要なものも店舗で買う方が、安心感がある気もします。

すみ分けの境界線探しの段階か

米国では、アマゾンなどのネット通販が猛威をふるい、既存小売業が不振に陥る例が続出しています。最近でも米トイザラスが倒産しました。また全米最大の小売業であるウォルマートもネット販売が不振となるなど、ネット販売でも競争が激しくなっているようです。

一方で、アマゾンは食品スーパーのホールフーズ・マーケット買収を発表しました。アマゾンの持つ顧客データ分析や物流に関するテクノロジーを生かすとのことですが、アマゾン自体もリアル店舗に一定の役割があることを認めているということではないでしょうか。

経済産業省の統計では、2017年売上高の前年比は百貨店-0.7%、スーパー+0.4%、コンビニ+2.4%、家電量販店+3.1%、ホームセンター-0.4%ですが、ドラッグストアは+5.4%と好調です。一方の個人向けEC(ネット通販)市場も、同じ経産省調べで、2016年は+5.4%、2017年も増加が予想されます。

既存小売業同士、ネット業者同士、ネットvs既存小売り、いずれも今後の争いが見ものです。

(文:松井証券 ストラテジスト 田村晋一 写真:ロイター/アフロ)

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