はじめに
不動産事業を成長分野に
それにしても、新宿や銀座の旗艦店が中心で、他の百貨店大手に比べて非百貨店分野への展開に慎重だった三越伊勢丹HDが、なぜ地元密着型SCを手掛けることを決めたのでしょうか。
実は同社は2018~2020年度の3ヵ年計画において、事業構造の転換を掲げ、4つの分野を強化することを打ち出しています。その中の1つに、不動産事業があります。ミーツ国分寺のようなマスターリース案件もこれに含まれており、同社では「成長事業と位置付けている」(不動産事業部の吉澤知員マネージャー)のです。
杉江社長によると、すでに引き合いのある場所があるそうで、ミーツとして2号店、3号店の出店も視野に入っているもよう。吉澤マネージャーは「百貨店や超大型SCは非日常的なものを提案する。普通のSCや商店街は生活必需品を売る。われわれはその間に『生活の潤い』を求めるマーケットがあると思っています」と分析します。
クイーンズ伊勢丹では地元・国分寺産の野菜を取り扱う
とはいえ、単純にテナントを探してきてリーシングするだけでは、商業施設の運営で先行するイオンや三井不動産には勝てません。そこで、クイーンズ伊勢丹やイセタンミラーなど、三越伊勢丹HD独自のコンテンツと組み合わせることで、ちょっと上質なものを求める顧客層の日常需要を取り込み、三越伊勢丹らしさを出そうというのです。
そのうえで、ミーツエムアイカードという新たなクレジットカードを発行。Web明細の登録と年1回以上の利用で年会費を無料にするなど、従来のMIカードよりも利用者のハードルを下げることでエントリーカードとして位置づけ、新宿や立川の百貨店との相互送客を狙っています。
初年度は600万人の来館目標
そんなミーツの1号店の場所として国分寺を選んだ理由は、何だったのでしょうか。
杉江社長は「国分寺はわれわれにとって非常に大切な街。新宿店、立川店の利用客が多数住んでおられる街で、その率は中央線の駅の中でも高い」と言います。普段の買い物はミーツでしてもらい、週末などは新宿や立川の百貨店で大きな買い物をしてもらう、という戦略が透けて見えます。
普段使いを意識した3階のテナント
吉澤マネージャーによると、ミーツ国分寺の商圏は半径が縦(南北)に5キロメートル、横(東西)に2キロメートル。人口は70万人程度を想定しているといいます。「所沢や小平のマーケットもしっかり取っていきたい」(同)。
開業初年度の来館者数の目標は600万人。「まずはここを成功させて、2号店、3号店につなげていきたい」と、吉澤マネージャーは意気込みます。一方で、今後の出店地域については、「百貨店と補完関係にある立地がベストですが、百貨店がないエリアに出すことで、三越伊勢丹に親しみを持っていただくきっかけにもなる」(同)と、含みを持たせます。
杉江社長も「そこに住んでいるお客様とわれわれとの親和性が大事。上質なライフスタイルを求める方がたくさんいらっしゃるところであれば、出ていける」と話します。
ただ、「アマゾンエフェクト」という言葉もあるように、米アマゾン・ドット・コムをはじめとしたネット通販の拡大によって、リアル店舗は強い逆風にさらされています。三越伊勢丹HDでも3月に伊勢丹松戸店を閉店するなど、苦しい状況です。
「どういうリアル店舗を作れば、デジタルに対抗できるのか、内容については今後も精査していきます」と語る吉澤マネージャー。大型SCの一角にミーツとして出店する可能性も匂わせています。
はたして、ミーツ国分寺の開業が三越伊勢丹HDの反転攻勢の“のろし”となるのでしょうか。重い腰を上げた百貨店業界の雄に、かつてない関心が寄せられています。