はじめに

新iPhoneにフェリカが搭載されるという朗報の影に…

アップルが9月7日(米国時間)に新しいiPhone7の商品発表を行いました。今回の新型iPhone、任天堂のマリオが搭載されるというニュースもさることながら、一番注目を集めたのはついに日本で普及している非接触型ICチップ方式のフェリカを搭載するというニュースでした。

これでiPhoneユーザーも、スマホにSuicaなどの電子マネーアプリを搭載することができるようになり、iPhoneで電車に乗ったり、コンビニで買い物をしたりすることができるようになります。アップル自体もこのフェリカを用いた電子マネーのApple Payを日本で展開する予定ですが、導入時期は来年になるそうです。

他にも防水やカメラ性能があがるなどのスペック向上や、ヘッドフォン端子がなくなってしまうという一部のユーザーにとっては少し悲しいニュースなど、新商品発表では話題が持ちきりだったのですが、私たち経営コンサルタントが一番注目したのは、フェリカに関連したある情報でした。

それはこのフェリカ対応が日本で販売される端末に限った特別対応だというニュースです。アップルという会社が「日本に限って」というように地域限定で商品対応をするというケースは非常に珍しい。「そこで何が起きているのか?」にコンサルタントは逆に関心を持ってしまうのです。


アップルが消費者のことを考え始めた理由は「逆風」だ!

どんな企業、どんな経営者にもいいところと悪いところがあるものです。アップルは創業者の故スティーブ・ジョブス同様に、いいところは徹底的に最高の商品を作り上げることにこだわるという点ですが、悪いところはやはりジョブス同様に傲慢なところがある点です。

今回、ユーザーニーズの高いヘッドフォン端子を取り除いてしまったのは、その傲慢という側面の現れです。従来のヘッドフォンが使えなくなった消費者は、新しい仕様のヘッドフォンを購入すればいいと突き放すのが、従来のアップル流です。

ところが今回は日本の消費者に対して、これまであれだけかたくなに導入してくれなかった日本特有のフェリカを内蔵してくれた。例外的な消費者サービスをアップルが始めた最大の理由が何かというと、それはアップルの業績に逆風が吹き荒れているということです。

相変わらず世界一の時価総額会社ではあるが?

アップルはここ数年間、世界一の時価総額会社の座をキープしています。直近の時価総額を見ると5840億ドル(約58兆円)というのがアップルの企業価値、つまり会社の値段です。

世界一の座にあることには変わりないのですが、実はアップルの世界一度合がかなり変化し始めているのです。

2年前、2014年10月のアップルの時価総額を見ると、ちょうど今とほぼ同じ5820億ドル。つまり、過去2年でアップル株はほとんど上昇していないのです。そしてもうひとつ、アップルの株主にとって残念なことはその相対的な価値です。

アップル株は2年前にはハイテク株の中でダントツに高い価値があったのです。2014年10月当時は、アップルの時価総額5820億ドルはMicrosoftとFacebookを合わせた金額(5810億ドル)よりも高かったですし、GoogleとAmazonを合わせた金額(5,270億ドル)よりも高かったのです。アップル1社で世界的なIT企業2社分の価値がある。それくらいアップルの企業価値は群を抜いていました。

ところが、今は違います。Googleの時価総額は5360億ドル、Microsoftが4490億ドル、Facebookが3760億ドル、Amazonが3720億ドルとIT会社はどの会社もアップルの地位に肉薄し始めているのです。

さらに吹き荒れるアップルへの逆風

それに加えて、足下ではアップルに対するさらなる逆風のニュースがどんどん報道されています。ヨーロッパでは欧州委員会がアップルへの事実上の追徴課税に踏み切ることが明らかになりました。欧州委の指示通りの追徴課税が生じた場合は、業績面では年間利益の3割強に匹敵する追徴課税になりそうです。

http://www.news24.jp/articles/2016/08/31/10339546.html

先週には、アップルがiPhoneの販売苦戦で、協力会社に対して電子部品の値下げを要請しているという海外報道をきっかけに、日本や中国、台湾などの部品メーカーの業績悪化が懸念されることになり、それらの企業株価が下がるという出来事が起こりました。

http://www.nikkei.com/article/DGXLZO06830160S6A900C1DTA000/

実際、中国ではアップルやサムスンというこれまで市場を引っ張ってきた二大メーカーではなく、第三勢力のスマホが台数を急拡大しています。

このような状況下で、アップルはどうやら消費者をぞんざいに扱えなくなってきたようです。

アップルが日本の消費者に優しさを見せる会社になった最大の理由は、アップル自体の苦境に原因があるのではないかと思うわけです。

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