はじめに
新宿店と日本橋店を大幅刷新
とはいえ、費用の削減ばかりでは、企業としてはどうしても後ろ向きの姿勢になってしまうもの。当然ながら、トップラインの引き上げにも策を講じます。
2018年度の総投資額は520億円と、前年度に比べて136億円も積み増します。関連経費と減価償却費の合計で49億円のコスト増要因になりますが、「未来に向けた投資を前倒しでやっていきたい」と、杉江社長は力を込めます。
具体的には、2020年度までにデジタル関連分野で200億円以上、また基幹店のテコ入れに250億円を投じる構えです。
前者では、今秋までに顧客向けのスマートフォンアプリを開発。併せて、既存店舗のウェブサイトを今夏までにリニューアルします。こうした施策で、現在200万人のデジタル会員を2020年度までに350万人に引き上げる計画です。
また、消費者の購買行動がインターネットで商品を確認してから店舗に買いに来るという形態に変化していることを受け、デジタルマーケティング基盤を2019年度までに整備。2020年度には、ほぼすべての商品をネット上で閲覧できるようにします。
さらに、デジタル分野で7つの新事業を検討中。6~7月にも第1弾をスタートさせたい考えです。「小さく始めて、早く育てる。ダメなものはスッパリやめます。外部の知見を活用するため、業務提携やM&Aも活用していきます」(杉江社長)。
活性化投資が計画されている日本橋三越本店
基幹店については、2020年の東京オリンピックを見据えて、伊勢丹新宿店に100億円、日本橋三越本店には150億円を投じて、活性化を図ります。
新宿店では、まずメンズ館のテコ入れを行い、その後は本館の婦人衣料や化粧品、宝飾・時計などの売り場を刷新します。日本橋では、座ってゆっくり接客できる「おもてなしのできる化粧品売り場」(杉江社長)などに見直していく予定です。
株式市場は会社計画を好感
決算発表翌日の5月10日の三越伊勢丹HDの株価は始値が1,324円と、前日終値を115円(9.5%)も上回って寄り付きました。今のところ、市場参加者は今期の会社計画を好意的に受け止めているようです。
一方、報道陣からの質問が集中したのは、希望退職の募集について。今後3年間で800~1,200人の応募を想定しているところ、初年度は180人にとどまりました。この点に関して、杉江社長は「初年度は募集から締め切りまで1ヵ月しかありませんでした。だから、このくらいかな、という感覚」との見解を示しました。
今年度は上期と下期の2回募集をかけ、仮に応募が少なかった場合は自然減とのバランスの中で補充人員を調整する意向です。「上期の応募人数が見えてくると、今後の予測もついてきます。そのうえで、いつまで制度を続けるか、考えたいと思っています」(同)。
杉江社長は自らのプレゼンの最後、新たに策定した企業理念に触れて、こう語りました。「百貨店のビジネスモデルが同じ形で続くとは思っていません。データをしっかり見て、他の人と議論しながら、時代より早く変われるよう努力していきたい」。
会社を変えようという意気込みと、その実現のためのロードマップの説明に多くの時間が割かれた、今回の決算説明会。あとは、しっかり実行に移せるか。そこに、三越伊勢丹HDの未来が懸かっています。