はじめに

5月14日から16日にかけて、仮想通貨の情報サイト「CoinDesk」が運営する年次イベントがニューヨークで開催されました。「ブロックチェーン・ウィーク」とも呼ばれ、全体では昨年の2倍強の8,500人もの投資家や個人が参加しました。勢いづいたCoinDesk は、さらに9月にシンガポールでも初めてのフォーラムを開催すると発表しました。

同イベントでは、金融当局者の講演や、技術系の若手実力者と金融関係者によるデジタル決済の将来に関する討論など、143のセッションが行われました。開催場所のニューヨークヒルトンホテルの周辺では、高級車のランボルギーニがプロモーションとして車を走らせたことも話題になりました。


コンファレンスの内容は?

昨年は、このイベントの前後でビットコインの価格が70%近く上昇したことから、市場では再度の値上がりに期待する声も出ていました。しかし、今年はイベントの前後でビットコインの価格は2%下落。その後もじわじわと値を下げています。

その背景には、まず価格のレベル感の問題があります。昨年のコンファレンスの頃に比べて、ビットコインの価格は5倍になっています。

また、コンファレンスの議論の内容としても、将来に向けて期待が寄せられるような展望は示されませんでした。

基調講演を行ったセントルイス連邦準備銀行のジェームズ・ブラード総裁は、ブロックチェーン技術は評価しつつも、「仮想通貨が法定通貨のように流通することを想定するのは難しい」とコメントしました。

1800年代初頭、まだ米中央銀行もその発行する政府紙幣も信頼を得てなかった頃、流通していた貨幣の9割は民間金融機関が発行したものでした。ブラード氏は、その頃の例を用いて、一国に多数の通貨が乱立すると、極めて多くのマイナス面があると指摘しました。

たとえば、取引の種類によって使える通貨が違うとか、各通貨の交換レートが日々変動し、「通貨のカオス」状態に陥ってしまうリスクがあることなどが、その理由です。

好悪両材料が入り乱れる

ロシア、中国などで規制強化のうわさが相次いだことも価格下落の一因だと思われます。これらの問題は、今週になって中国当局が改めてICO(Initial Coin Offering)のリスクを指摘したことや、ロシアで仮想通貨関連法案が審議入りしたことなどから、さらに市場に影響を与えています。

一方、野村ホールディングスの仮想通貨のカストディ・サービス提供に関する研究開始、大和証券グループ本社の仮想通貨ビジネスへの参入検討などの発言がポジティブなニュースとして報じられ、ある程度下値を支えています。

今後も、市場ではこうした規制強化と期待とのせめぎ合いが続くでしょう。今のところ、市場の期待感を大きく押し上げる材料を見つけるのは容易ではないかもしれません。

その一方で、仮想通貨の時価総額がピーク比半分以下の40兆円程度で落ち着いている今、それぞれの国の規制の方向性も見え始めました。今後、全面的な規制厳格化に舵が切られるとしたら、時価総額が70兆円を超えるようなブームが戻ってきた時ではないかと考えています。

このため、仮想通貨市場は、当面、規制のニュースをにらみつつ、レンジ内(ビットコインで75万~95万円程度)の動きとなると予想しています。

(文:マネックス証券 チーフ・アナリスト 大槻奈那)

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