はじめに

世界的な指標となっているWTI原油価格は2017年6月の1バレル=40ドル台前半から、ほぼ一貫して上昇基調を歩み、5月上旬には70ドルを超えました。私たちの身の周りでも、ガソリン価格が顕著な上昇を見せるなど、原油高を実感する場面が増えてきているように思います。

ここまで原油相場を押し上げてきた原動力とは、いったい何だったのでしょうか。また、この先の原油相場はどのような展開を見せるのでしょうか。原油価格上昇の背景を整理するとともに、今後の原油価格の見通しについて考えてみます。


市場は米国内在庫に注目

原油価格は日々、さまざまな情報に基づき、市場で値段が決定されています。とりわけ、市場参加者が注視しているのが、毎週米エネルギー省から発表される米国内での原油在庫の動向です。

これによって米国内での原油需給を把握し、さらには世界の原油需給を占うことで、価格予測を行います。そのため、WTI原油価格は米国の原油在庫の増減に、時として敏感に反応することがあります。

そうした重要な意味合いを持つ米国の原油在庫は、ちょうど1年前くらいから減少傾向をたどり、今年に入ってからもほぼ横ばいで推移しています。この間の原油価格の上昇は、そうした原油在庫の整理と整合的ともいえます。

ただ、ここで注意したいのは、原油在庫の減少は必ずしも米国内での原油生産の減少によってもたらされているわけではないという点です。過去1年間に米国の原油生産量は、逆に一貫して増加を続け、足元では過去最高水準に達しています。

米国内在庫減少のカラクリ

では、なぜ原油在庫が減少しているのでしょうか。その原因は、米国による原油輸入の減少に求めることができそうです。

米国は原油の一大生産国であると同時に、一大輸入国でもあります。そんな米国で、原油生産量が拡大する一方で、それ以上に原油輸入量が減少したことが、結果的に原油在庫の減少につながったと考えられます。

さらに一歩踏み込んで、米国の原油輸入減少の背景を探ると、とりわけサウジアラビアからの輸入量が大きく減っていることに気付きます。それはすなわち、同国が大きな影響力を持つOPEC(石油輸出国機構)の減産の裏側で起きている、ある種の玉突きのような現象と見ることができるでしょう。

2017年から大規模な減産を行っているOPECの取り組みが、めぐりめぐって米国の原油需給をタイト化させる方向に働いていると理解できます。原油市場におけるOPEC減産の意義は非常に大きいといえます。

サウジとロシアが減産緩和?

そうした中で、5月25日にはサウジアラビアとロシアが減産緩和(すなわち増産)の方向で検討に入ったことが伝えられました。

OPECやロシアがこのまま減産体制を維持することで、上述のように米国の生産シェア拡大を許すようなら、原油市場における主導権が完全に米国に移りかねない状況です。そうした事態を嫌った様子が、最近のサウジアラビアやロシアの行動に表れていると解釈されます。

6月22日にはOPEC総会が予定され、今後の減産への取り組みについて、加盟国同士で話し合いが行われる見通しです。サウジアラビアやロシアが減産緩和に動くようなら、原油価格を押し上げてきた需給の均衡は、近い将来、崩れる可能性があります。

OPECの減産が続く限りは、原油相場の安定は保たれると考えられますが、そうでない場合は、供給拡大による原油需給の悪化が現実味を帯びてきます。OPECなどによる減産を価格上昇の拠り所としてきた原油相場が、減産緩和とともに調整に向かう可能性があることを考慮しておく必要がありそうです。

適正水準は60ドル台半ばか

さらに、原油需給の均衡を破るその他の要因として、やはり米国の動向は無視できない面があります。もともと2018年の米国石油会社の上流投資計画は、控えめなものになる見込みでしたが、原油価格が1バレル=70ドルまで上昇すると、話は変わってきます。

これまで採算に乗らなかった案件でも、十分に利益が確保できるようになり、2018年の米国の生産量は想定以上に拡大する可能性があります。すでに米国の生産量は過去最高水準にありますが、シェール革命後の米国には、もう一段の水準切り上げを可能にするポテンシャルが十分に備わっていると考えられます。

以上を踏まえ、今後のWTI原油価格の見通しについては、どのような展開を想定できるでしょうか。WTI原油価格が再び70ドル台を目指し、その水準をキープするか否かが1つの焦点となりますが、この点に関しての筆者の見方はやや懐疑的です。

OPECなどによる減産緩和の方向性が示唆される中、米国での生産拡大が続けば、原油需給はいずれ供給超過に傾くことが目に見えています。結局、WTI原油価格は60ドル台半ばくらいの水準が、現在の原油需給から考えた場合の適正水準と評価できそうです。

(文:大和証券 投資情報部 チーフ・グローバル・ストラテジスト 壁谷洋和)

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