はじめに

まもなく6月。日に日に暑さも増し、夏が近づいてきました。そんな夏のフルーツの代名詞といえば、やはりスイカではないでしょうか。

筆者の地元・熊本県では、寒暖差の大きいこの時期から出荷が始まった、種なしスイカの新品種がにわかに話題を集めています。その名も「ブラックジャックスイカ」です。

種なしスイカは過去いくつもの品種が生まれてきましたが、いずれも定着することはありませんでした。しかし、ブラックジャックスイカはこれまでの常識を吹き飛ばす、種なしの定番商品になりうるスイカなのです。

まだ知名度も低く、取り扱っている業者の少ないレアアイテムですが、以前の種なしスイカとどう違うのか、解説したいと思います。


糖度は同じなのに種がない

ブラックジャックスイカは、農産種子の研究開発を手がけるナント種苗のスイカブリーダーの手によって2013年に開発されました。現在は熊本をはじめ、沖縄、千葉、山形、青森など、各地で作られるようになっています。

気になる味ですが、繊維が少なめで、シャリ感が残っており、糖度も通常の大玉スイカと遜色のない12度程度あるように作られています。

玉によってはごくわずかに種ができてしまうことがありますが、その種も白くて極薄のため、そのまま食べても異物感がなく、健康面に問題はありません。

ナント種苗は種なしスイカの伸びしろに目をつけ、地道な品種改良を重ねたことで、従来の種なし品種が抱えていた問題を解消する品種を生み出すことに成功しました。

BJスイカはどうやってできた?

ブラックジャックスイカはどのようにして生まれたのでしょうか。実は、従来の種なしスイカと作り方は同じなのです。

通常の種ありスイカとホルモン処理スイカを掛け合わせることで、種なしスイカはできます。遺伝子組み換えではなく、「染色体操作」と呼ばれる処理を施して栽培しており、人体への害はないとされています。

種なしスイカを栽培するには「コルヒチン」という植物由来の成分を使います。このコルヒチンは種なしブドウを作る工程でも用いられます。安全性について、ナント種苗の宇野康之氏は「長い歴史が証明しています」と話します。

一方で、これまでの種なしスイカでは、栽培する過程で3つのデメリットが生じていました。

(1)手間
従来の種なしスイカは普通のスイカに比べ、発芽性が悪いというデメリットがあります。発芽性が悪いと通常のスイカよりたくさん種をまかないといけませんから、栽培と費用と手間がかかります。

スイカ農家にとってみれば、ただでさえ重いスイカなのに、栽培にまで手間がかかるとなっては、敬遠されても不思議ではありません。

(2)味
種なしスイカは通常のスイカに比べて着果性が悪いというデメリットがあります。通常のスイカは一度に2~3個着果するのに対し、種なしスイカはその半分の1個です。

通常より着果性が悪いので、1玉に注がれる栄養が過剰になります。そうなると玉が大きく変形したり、果肉が硬く、糖度が上がりにくくなります。結果的に通常のスイカより味が悪く、おいしくない出来栄えになることが多かったのです。

(3)コスト
種なしスイカは栽培に手間ひまがかかり、収穫量も限られてしまうため、その分のコストが販売価格に上乗せされてしまいます。食べる側にとってはおいしくなく、生産する側は手間がかかり、コストも高いとなると、売れる理由は「種がなくて食べやすい」だけしかありません。

このような理由により、従来の種なしスイカは市場に出回っても定着することなく、姿を消してしまったわけです。

種なしスイカの矛盾に挑む

こうした従来の種なしスイカの持つデメリットを解消させたのが、ブラックジャックスイカです。「種なしスイカを一般的なスイカと同じレベルに手間なく栽培でき、なおかつ、味の良いものにしたい」というミッションに掲げ、開発に取り組んだといいます。

しかし、その道のりは決して平坦なものではありませんでした。課題は何といっても「種なしを実現しつつ、種なしスイカの特性を乗り越える」という部分にあります。

種なしスイカは生育が旺盛という特徴があります。「生育が旺盛」というと良いことに聞こえますが、過剰に生育すると子孫を残そうとしないため、実が着かなくなります。そして、実が着いたとしても今度は過剰に肥大して、変形や果肉に空洞ができてしまいます。

種なしスイカの特徴を出させないようにして種なしスイカを作るという“矛盾”を、品種改良を重ねて突破することこそが課題だったのです。特に寒い時期は生育が旺盛になりやすく、低温・低日照で着果が難しいうえに、早い時期から出荷するためには早生性が求められます。

ブラックジャックスイカは、一般的なスイカと同程度の栽培の手間、味を実現した課題を乗り越えたスイカなのです。開発過程を知る宇野氏は「大きなブレイクスルーはなく、開発はとにかく日々の地道な研究の積み重ねでした」と言います。

認知度の低さを逆手に取る

ブラックジャックスイカはここ数年で本格的に販売がスタートしたばかり。スーパーに置かれていることはほとんどなく、販売しているのは私が経営しているようなフルーツギフトショップや、都内の百貨店など、かなり限定されます。

そんなニッチな種なしスイカを、どんな人が購入しているのでしょうか。筆者の経営する店舗で購入したお客様からの反応を見ていると、特に子供や高齢者に受けているようです。ブラックジャックスイカは種なしですから、包丁でカットしたらそのまま口に放り込める手軽さが大きなメリットなのでしょう。

私はブラックジャックスイカが「サプライズギフト」になるだろうと考えています。ほとんどメディアに取り上げられておらず、生産者も販売業者も少ないので、受け取った側は「こんなスイカが世の中にあったのか」と驚かれます。

そもそも種なしスイカ自体、食べたことのある人が少ないのですから、この反応は自然なものといえるでしょう。また、ギフトだけでなくアミューズメント施設の目玉景品にも置かれたことがあり、人目を引くアイテムとして法人にも活用方法があるのではないでしょうか。

知らない人が多いからこそ、サプライズギフトとしておすすめのブラックジャックスイカ。今年の夏の贈り物に一押しのフルーツです。

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