ここにきてイタリアなど南欧の政治リスクがにわかに注目を集め、ユーロの下押し圧力やリスク回避の円高材料となる場面がみられています。これまでの経緯と今後のポイントについて考えてみたいと思います。


組閣をめぐる混沌の経過

イタリアでは3月4日に総選挙が行われ、反既存勢力を掲げポピュリズム(大衆迎合主義)的な「五つ星運動」と、極右政党である「同盟」が躍進しました。

両党のスタンスや公約を確認すると、五つ星運動はイタリアに緊縮財政を強いる欧州連合(EU)や、それを受け入れた既存政党に対する反発を強く主張。最低所得保障制度など、大衆受けの良い(ポピュリズム的な)政策を掲げています。

一方、同盟は自国第一主義のもと、反EU・反移民といった右翼的な主張に加え、所得税の大幅減税などポピュリズム的な政策も掲げていました。

両党は連立協議の中で過激な政策を修正し、明確な反ユーロやEUの財政規律への反対などを取り下げました。が、失業者への最低所得保障や所得税減税、年金開始年齢引き上げを定めた年金改革の撤回など、大衆迎合的な公約を掲げており、市場では財政悪化懸念が台頭していました。

イタリアでは、大統領が首相と閣僚を任命する仕組みになっています。両党は新首相候補として法学者のジュゼッペ・コンテ氏を推し、セルジオ・マッタレラ大統領はコンテ氏を次期首相に指名しました。

しかし、その後の組閣においてユーロ圏離脱を主張するパオロ・サボナ氏が経済大臣に就任することに反対し、組閣作業が頓挫。結局、コンテ氏は首相就任を辞退しました。

その後、マッタレラ大統領は国際通貨基金(IMF)で財務局長の経験があるカルロ・コッタレッリ氏を新たに次期首相候補に指名しましたが、選挙で勝利したにも関わらず組閣を妨害された五つ星運動と同盟は強くは反発。大統領弾劾や早期再選挙の可能性を含めて事態は混迷し、これを市場は嫌気する展開となっています。

EU離脱騒動に発展するのか

特に今回、2つの反感・反発が、改めてEUの緊縮財政への批判につながっています。

1つは、ユーロ圏離脱の主張を理由に経済大臣登用が拒否され、選挙での勝利という民意が反映されなかったことに対する反感。もう1つは、新たな首相候補の経歴から判断して、減税など財政が悪化する政策には厳しい対応が想定され、こちらも選挙での勝ち取った公約が結局は反映されないだろうという反発です。

結果、次回の再選挙ではEU離脱が1つのテーマとなり、場合によっては事実上のEU離脱を問う国民投票的な色彩を帯びる可能性に対して警戒が強まっています。

これら、「ポピュリズム政党や極右政党による連立政権そのものに対する警戒」に加え、「その公約による財政悪化懸念」「組閣をめぐる混乱と再選挙の可能性」「再選挙がEU離脱をめぐる国民投票に近い位置づけとなる警戒感」などが重なり、金融市場ではリスク回避傾向が強まるとともに、為替市場ではユーロの下落とリスク回避の円高圧力がみられています。

筆者は、両党が連立協議の中で明確な反EUなどの過激な政策を取り下げた経緯もあることから、実際に両党が政権を担う立場となれば、現実的な路線に舵を切り、デメリットも大きいEUからの離脱といった議論は沈静化していくのではないかと考えていました。しかし、事態はどうやら再選挙に向けたリスクが加速しつつあります。

ただ一方で、五つ星運動は再び同盟との連立政権実現を強く働きかけているとの報道もあり、改めて両党による早期組閣が実現する可能性も残っているようです。早期組閣が実現すれば、市場のリスクは急速に後退するでしょう。

スペインとの同時総選挙の可能性

今後のポイントは、この「五つ星運動と同盟による内閣が早期発足に向かうかどうか」に加え、「発足をあきらめた場合、大統領弾劾に向かうか、再選挙に向かうか」「再選挙となった場合、EU離脱が大きなテーマとなるかどうか」などが挙げられます。

これら3つのポイントについて、筆者は次のように予想しています。内閣の早期発足については、大統領との対立が続いており、6:4で「難しい」と予想。大統領弾劾か再選挙かについては、弾劾には時間がかかるため「早期再選挙」を選択すると予想。EU離脱はデメリットも大きく、混乱を招くため、7:3で「テーマにしない」とみています。

最終的にはEU離脱がテーマにならないため、2010年頃にみられたような欧州危機の再来とはならないと予想しています。しかし、これらについてもう少し見通しが晴れるまで、各金融市場においては激しい値動きに注意を払う必要があります。

また、スペインでは汚職問題に絡み、5月25日にラホイ首相に対する不信任決議が出されており、6月1日にも採決が行われる見通しとなっています。可決されれば総選挙となるのはもちろん、否決されたとしても2018年の予算成立には野党の協力が必要であることから、いずれにしても総選挙となる可能性が浮上しています。

最悪の場合、7~9月頃にイタリアとスペインで同時総選挙の可能性があり、そうなればリスク回避圧力がさらに強まる可能性があります。これら南欧の政治リスクはユーロや欧州の債券といった欧州の資産のみならず、世界的な株安やリスク回避の円買いなど金融市場全般に悪影響を与え始めていることから、目先はその動向を注視する必要があるでしょう。

(文:みずほ証券 チーフFXストラテジスト 鈴木健吾)