はじめに
読者のみなさんからいただいた家計や保険、ローンなど、お金の悩みにプロのファイナンシャルプランナーが答えるFPの家計相談シリーズ。今回は花輪陽子氏がお答えします。
夫が2年後に60歳で定年になります。延長はしないと言います。子供2人のうち1人は独立しましたが、もう1人は留学中で、あと6年間は教育費が見通せない状態です。夫婦2人暮らしなので以前より時間に余裕があります。現在は地元の中小企業にパートとして働いていますが、今からでも会社を辞めて正社員の道を探すべきでしょうか。仕事は専門職なので需要はあると思うのですが、扶養から外れると年間50万円ほどの補助がなくなります。そうすると、せめて年収200万円以上稼がないと、慣れたパートを辞めて新しい仕事をする意味はありませんよね。
住宅ローンは完済済みです。他に借金等はありません。私としては正直今の生活リズムを崩したくないので、夫に頑張って欲しいと思っているのですが……。
〈相談者プロフィール〉
・女性、55歳、既婚(夫:会社員)、子供2人
・職業:パート・アルバイト
・居住形態:持ち家(戸建て)
・手取りの世帯月収:40万円
・毎月の支出目安:20万円
花輪: 「扶養内で働くか、正社員で働くか」は悩みの種になります。相談者の場合は、会社の家族手当などの50万円がもらえなくなることを気にされているのでしょう。
廃止する企業も なくなると大きい家族手当
人事院の「平成28年職種別民間給与実態調査」によると、家族手当を支給している企業のうち、85.4%が対象となる配偶者に収入制限を設けています。
さらに、その収入制限の額として、65.9%が「103万円」、すなわち配偶者控除の上限額と同額とし、29.5%が「130万円」、すなわち社会保険料の扶養の上限額と同額としています。
家族手当の支給額は勤務先により異なりますが、最近では家族手当をやめると発表している企業がある一方で、月2万円程度支給している会社も存在します。
1,220万円超の高年収の夫は注意
その他にも、配偶者控除、社会保険料の扶養など、気にしなければならない制度設計があります。
2018年1月に配偶者控除が改正されました。これまで控除を最大に受けるには、扶養される妻の年収は「105万円未満」(年金収入なら160万円未満)とされていたのが、今回の改正で「150万円以下」(年金収入なら205万円以下)まで可能になりました。
また、控除が段階的に適用される配偶者特別控除の適用要件も緩和され、妻の年収「103万円超~141万円未満」(年金収入なら158万円超~196万円未満)とされていたのが、「103万円超~201万円以下」(年金収入なら158万円超~243万円以下)まで広がりました。
もう1つのポイントとして、配偶者控除が適用される夫に年収制限がつくということがあります。夫の年収が「1,120万円を超える」と控除額が次第に減り、年収「1,220万円を超える」とゼロになります。
従来は配偶者特別控除にのみ年収制限が付いていましたが、今後はたとえ妻に収入がなくても、高額納税者である夫は配偶者控除が適用されなくなります。つまり、2018年からは夫の年収が1220万円超か、妻の年収が201万円超なら、控除はまったく受けられなくなるということです。
年収200万円以上を目指すか、または年収100万円のパートか
その他にも所得が一定以上を超えると自分で社会保険料を支払うことになります。2016年10月の社会保険制度の改正により、これまで年収130万円以上のパート労働者が対象だった社会保険料の負担が、従業員が501人以上いる会社などは年収要件が106万円に引き下げられました。
社会保険料の負担は年間20万円前後と大きいために、ひとつの大きな壁となります。パート先の社会保険の加入の基準を確認しましょう。規模が小さい企業の場合は130万円未満のままなので、その壁を意識するとよいでしょう。
配偶者控除、社会保険料の扶養の壁、夫勤務先の家族手当など制度設計上、気にしなければならないポイントはたくさんあります。これらの壁を大きく超えて高収入(具体的には相談者のご指摘のように200万円以上)で働くか、年収100万円程度のパートをするかという選択肢が手取りを考えると有効です。
ですが、あと2年でご主人が定年退職ということですので、そうなれば家族手当がなくなるという心配もありません。ご主人の退職を見据えて正社員になる、あるいは200万円を超えて働くのも手でしょう。
教育費の目処がついたら、リタイアメントプランを
住宅ローンも完済して、あと6年くらいで子供の教育費の目処がつくということなので、これを機にリタイアメントプランを立てましょう。
「ねんきんダイヤル」に問い合わせれば、年金の見込み額を教えてもらうことができます。男性の場合は昭和36年4月2日以降、女性の場合は昭和41年4月2日以降の生まれの場合、老齢年金の受給年齢は65歳からになります。
現在、支出額が年240万円程度ですが、夫の退職後、妻のパート収入100万円のみだと仮定すると年140万円の赤字になります。5年間で700万円になるので、夫もアルバイトをしたり、妻も収入アップを目指せると理想的ですね。働けないという場合は、貯蓄をして退職後に備えましょう。