はじめに
日本にカジノを中核とする統合型リゾートを建設する、通称「カジノ法案」が6月15日、衆院内閣委員会で賛成多数で採決されました。今後、衆参両院の本会議を通過できるかどうかはぎりぎりのタイミングです。
一方、法案が具体化されたことで、いよいよ日本でもカジノビジネスが始まると期待する向きもあります。このカジノ、いったい誰がどのように儲けるのか、ビジネスチャンスの仕組みを解説したいと思います。
カジノビジネス参入の高い壁
カジノ法案がいよいよ国会を通過するかどうかの興味深い状況に来ています。国会の会期延長がどうなるか次第ではありますが、衆参両院の本会議で法案がぎりぎりで成立する可能性が出てきました。
仮に今国会で時間切れとなった場合でも、ここまで法案が具体化したので、いずれ同じ方向で日本のカジノは実現するという可能性も高まりました。
大規模なカジノ都市といえば、米国のラスベガスや欧州のモナコ、アジアではマカオ、シンガポールなどが有名です。街全体がきらびやかなネオンで輝き、そこでは毎晩のようにたくさんの客が集まり、巨額の賭け金が動く。まさに人間の欲望を具現化したような光景が繰り広げられるのが、グローバルなカジノリゾートです。
このカジノビジネスですが、基本的にはこの分野でノウハウを持つグローバルなカジノ運営会社でないと事業に参加できないといわれています。たとえば、カジノフロアの設計、ディーラーなど従業員の育成、さまざまな不正を防ぐための仕組みといったものは、新規参入者にはマネジメントするのは不可能です。
あのドナルド・トランプ大統領も不動産ビジネスからカジノ経営に参入しようとして、その専門性の壁に阻まれ、思ったほどの利益を上げられなかったこともありました。それくらいカジノは難しいビジネスです。
想定される運営企業は海外勢
こうした理由から、日本にカジノを中核とする統合型のリゾート施設が誕生したとしても、その運営を行うカジノリゾート会社は基本的に海外で実績のあるグローバルなカジノ事業者になるとみられています。
具体的には、サンズ、MGM、ウィンなど、ラスベガスやマカオといった世界のカジノでおなじみの企業ということになるでしょう。日本はカジノ法案にあるように、このカジノから上がる収益の30%を税金として納めてもらうとともに、世界的なカジノグループの集客力によって観光収入をさらに増やすというのが法案的な目論見です。
今回の法案では、全国で3ヵ所のカジノリゾートを建設することになっています。現時点で大阪、福岡、沖縄などの自治体が誘致に手を挙げています。
集客の核としてのカジノリゾートを地方都市が誘致するという動きがあるのは理解できますが、日本全体で経済効果を得るという観点でいえば、まず大都市を選ぶほうが実は重要です。つまり、東京や大阪にカジノリゾートを建設するほうが、地方に建設するよりも経済効果ははるかに大きいということです。
また、理念的には訪日外国人をカジノのターゲットにするといっても、ビジネスの観点では収益の中心となる顧客は日本人になります。
ラスベガスのように全米、そして全世界から顧客を集めることができる成功例があるとはいえ、後発のカジノリゾートがラスベガスのようになれると考えるべきではありません。少なくとも最初の段階では、中心となる顧客は大都市近郊のほうが集めやすいのです。
カジノビジネスの真の収益源は?
しかし、カジノができると、いったいなぜ経済が発展するのでしょうか。ギャンブルというのはあくまでゼロサムゲームですから、大勝する人が出る一方で大損する人も出ます。ですから、カジノ自体は何ら経済的な付加価値は生まないという意見があります。
しかし、行動経済学的にはそうではないのです。ここがカジノビジネスの最大のポイントです。ギャンブルで勝った人はかなりの確率で、ギャンブルで勝ったお金を消費に回すのです。あぶく銭はその場で使ってしまう、それが経済効果を生み出すのです。
先進国の経済では富の格差が大きな問題になっています。富裕層が増加して、中流層以下の人たちの所得が年々減少している。そのこと自体も問題なのですが、もう1つ経済的には大きな問題があります。
それは富裕層が意外とお金を使わないということ。超富裕層といっても、購入する自動車が中流層の10倍の台数だとか、旅行に行く回数が20倍だということはありません。1日に着る洋服の数は同じですし、食事の回数も同じです。
そこで富裕層が増大する社会では、富裕層にいかに今以上の消費をさせるかを考える必要が出てくるのです。そこにカジノの経済学的な価値があります。
だから、世界の統合型カジノリゾートには必ず富裕層がお金を使う施設がたくさん存在しています。消費の中核となるべき施設としては高価なブランドショップの直営店が一番有望でしょう。
そう考えると、日本のカジノリゾートが成功する一番のポイントは、東京や大阪など大都市の富裕層がたくさん訪れて、そこでお金を使ってくれることだと経済学的には結論づけられるのです。