はじめに
どの家庭にも常備され、料理には欠かせない砂糖。いつでも使えるようにと、キッチンで保管しているものの、いつ購入したものなのか思い出せないこともあるのではないでしょうか。放置された砂糖が固まってダマになっているのは、保存方法が誤っているためです。
そもそも、砂糖に賞味期限はあるのか。また、固まった砂糖は品質が劣化している証拠なのか。正しい保管方法について、砂糖の専門家に教えてもらいました。
砂糖に賞味期限はある?
砂糖、特に家庭料理でよく使われる上白糖は、その名の通り白色のように見えますが、実はその結晶は無色透明。これは氷が無色透明なのに雪が白く見える現象と同じで、小さな結晶が集まることで光の乱反射がおきて白く見えるそうです。
高度に精製されている砂糖は不純物をほとんど含んでいません。品質が安定しているので「原則として砂糖には賞味期限が表示されていません」と、教えてくれたのは精糖工業会館・技術研究所主査の佐藤仁さん。
賞味期限や消費期限の表示義務を規定する食品表示法において、砂糖は表示の省略が認められているのだといいます。
キッチンは保管場所に適してない?
賞味期限がないとはいえ、保管には注意が必要です。
料理で使われる砂糖の主な保管場所はキッチン。砂糖は固着が起きやすいため、保管場所としては温度と湿度が一定に保たれているところが望ましく、それらの変化が大きいコンロまわりは避けた方がいいそうです。
そもそも、なぜ砂糖はダマになるのでしょうか。「上白糖の結晶の表面には、微量ですが『蜜膜』という砂糖蜜の膜が付着しています。そこに含まれる水分が乾燥によって減ると、蜜膜に溶けている糖分が結晶化します」。その結晶が隣り合わせの結晶と結びつき、砂糖はダマになっていくそうです。
また砂糖には、においがつきやすいという性質があり、においの強い調味料や石鹸などの近くに保管するのも避けた方がいいといいます。
開封後の砂糖の保管には、湿気やまわりの食品からのにおい移り、異物の混入を防止できるため、タッパーのような蓋のついた密閉容器が最適。「購入時のポリ袋は丈夫ですが、通気性があり、わずかながら湿気やにおいを通します」と佐藤さん。そのため家庭での長期保管には適していないそうです。
また、湿度を一定に保つことはできるものの、「冷蔵庫は避けた方がいい」といいます。冷えると砂糖の蜜膜の粘性が高くなり、固着しやすくなると考えられているためです。
ダマになった砂糖を元に戻す方法
固まってダマになった砂糖でも、ひと手間加えるだけで元に戻すことができます。砂糖は温度が変わっても甘さは変化しないという特徴があるため、ダマになっても品質の劣化を心配する必要はありません。
「新しいビニール袋に砂糖を移し、霧吹きでごく少量の水を吹き付け、そのまま数時間放置しておけば塊はほぐれていきます」。ただし、砂糖が溶けてしまわないよう、水のかけ過ぎには注意が必要です。
他にも、古くから行われるとして「食パンを容器に入った砂糖の中に入れておく」という方法も。これは、パンが容器内の湿度を適度に調節してくれることを利用したものだそう。
ダマになった砂糖は元に戻すことができますが、水分や湿気を含み過ぎて、溶けかかったような状態となったら“捨てるサイン”です。「微生物による汚染を受けやすくなるため、廃棄することをおすすめします」。
種類豊富な砂糖、特長を生かした使い分け
ひと言に「砂糖」といっても種類はさまざま。不純物を取り除いた精製糖には、無色透明のもの(上白糖・グラニュー糖・白ザラ糖)と、カラメルの褐色を帯びたもの(三温糖・中ザラ糖)と大きく分けて2つの種類があります。
グラニュー糖や白ザラ糖は癖がなく、素材の持ち味を損なわない甘さから、コーヒーや紅茶に利用され、加熱による着色がおきにくいのでジャム作りにも重宝されます。
一方で、上白糖は加熱するときれいな焼き色がつくので、この特徴を活かしてカステラ作りに多用されます。果実酒や果実シロップづくりでおなじみの氷砂糖は、水にゆっくり溶けながら徐々に糖の濃度が上がっていくため、果実の風味を引き出すのに最適なのです。
カラメルを含む三温糖や中ザラ糖には、独特の香りがあり、煮物や和惣菜と相性がいいのが特長。黒砂糖はショ糖以外にミネラルなども含んでいるので、それ自体を味わったり、他の素材の味をより際立たせる使い方が適しています。
賞味期限のない砂糖。正しい保存方法を知り、種類に応じた使い分けができたら、毎日の料理はもっと楽しくなりそうです。
(文:編集部 土屋舞)