はじめに

米国のドナルド・トランプ大統領の一挙手一投足に世界が振り回されています。

6月にカナダで開かれた主要7ヵ国首脳会議(G7サミット)では、保護主義的な通商政策を推し進める米国と、それに異を唱える他国が対立。史上初の米朝首脳会談に臨むためサミットを途中で切り上げた同大統領は、会談が行われたシンガポールへ向かう専用機の中から首脳宣言を受け入れないとする内容のツイートを投稿しました。

ツイッターではホスト国カナダのジャスティン・トルドー首相も強く非難。同首相がサミット後の会見で、米国の鉄鋼・アルミ製品に対する関税措置などを改めて批判したのに対し、「不誠実で弱虫」とこき下ろしました。


「不確実性」の変化を移す物差し

トランプ大統領の経済政策運営の舵取りは、日本の株式市場にとっても不安材料の1つです。

「2018年相場のキーワードは不確実性」――。あるストラテジストは年明け早々、こんな話をしていました。

「不確実」の最たるものが、トランプ大統領の経済・外交政策ではないでしょうか。同大統領が得意とする「ディール」をめぐっては毀誉褒貶(きよほうへん)相半ばしていますが、「場当たり的」といった批判が絶えないのも事実です。

「不確実性」の変化を映し出す物差しの1つが、「経済政策不確実性指数」と呼ばれる指標です。「経済政策不確実性(EPU)」という調査・研究機関が公表しているもので、米国の大学教授らが開発しました。

経済政策の不確実性に言及した新聞記事の数などを基に、「不確実性」を数値化。同指数の上昇は経済の先行きに対する不透明感の高まりを意味します。EPUでは世界全体だけでなく、日本、米国、欧州など24の国・地域ベースの指数も公表しています。

サミット直後に2ヵ月ぶり高水準へ

米国分については、月次だけでなく日次ベースの指数も算出されています。同指数は米国の新聞記事のデータベースから「経済」「不確実性」「立法」「赤字」「規制」「議会」「連邦準備」「ホワイトハウス」といったキーワードを含む記事を抽出。その増減を指数化しています。

EPUのホームページで日次ベースの同指数の推移をチェックすると、カナダでのサミット閉幕翌日の6月11日には244ポイントと4月9日以来、約2ヵ月ぶりの高水準へハネ上がりました。

サミットで米国と他国の間に生じた亀裂に加え、翌12日には米朝首脳会談、米連邦公開市場委員会(FOMC)という2つの大きなイベントを控えていたこともあって、「不確実性」が一気に高まったとみられます。

平穏な年も「高止まり」が続いたワケ

日次ベースの同指数の平均値をはじき出してみたところ、2017年は約98ポイントに達し、2016年の83ポイントを上回っています。2016年といえば、「波乱」が相次ぎました。

同年6月に英国で実施された欧州連合(EU)離脱の是非を問う国民投票では離脱支持が多数を占め、事前の世論調査を覆す結果となりました。11月には米国の大統領選挙が行われ、共和党のトランプ候補が民主党のヒラリー・クリントン候補を破り当選。「ブレグジット」に次ぐ大きな衝撃が世界中に走りました。

それに比べると、2017年は「平穏」だった印象があります。

同年5月のフランス大統領選では、「右でも左でもない」という立場を掲げた39歳のマクロン候補が勝利。「反移民」を前面に打ち出した「国民戦線」党首のマリーヌ・ル・ペン候補は決選投票で敗退し、極右政権の誕生を警戒していた各国の金融市場には安堵感が広がりました。

にもかかわらず、同指数はむしろ「高止まり」が続いていたわけです。

トランプ大統領当選直後に台頭した、減税や財政出動に伴う景気浮揚期待が一巡。2017年1月の就任後から同大統領に対して米国メディアの厳しい目が向けられ始めたことを示唆しているといえそうです。連邦政府予算をめぐる同大統領と議会の確執なども指数を押し上げた一因でしょう。

日本株への影響は不可避?

11月の中間選挙を意識し、保護主義へ傾斜するトランプ大統領。鉄鋼・アルミ製品に対する輸入制限措置には、米国の議会からも反発の声が上がっています。いきおい、経済の不透明感は簡単に払拭できそうにはありません。

さらに踏み込んでドル安を容認する姿勢を見せるようならば、日本株相場への悪影響も避けられないでしょう。

2018年の不確実性指数の平均値は6月17日時点で92ポイント。2017年の水準には達していませんが、「波乱の年」は超過。「不確実性」の高まりに対するリスクがくすぶっています。

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