はじめに

ベトナムでは今、海外投資家による株式保有制限の緩和や、国有企業の民営化を背景として大型企業の上場が相次ぐなど、株式市場の整備が進められています。

そのような中、ここ1~2年投資家の間で期待が高まっているのが、MSCI新興国指数へのベトナム株の採用です。折しも先週、米国のMSCI(モルガン・スタンレー・キャピタル・インターナショナル)は定例の市場分類見直しを発表しました。

ベトナム株の行方はどうだったのでしょうか。


フロンティア市場の主役に?

MSCI指数とは米国のMSCIが提供する株価指数で、投資信託(ファンド)など世界の機関投資家がベンチマークとする、世界で最も有名な株価指数のひとつです。そのため、指数に銘柄が採用されると、指数に連動したファンドを通じて機関投資家の買いが入りやすく、株高につながる傾向があります。

特に昨年6月は、中国本土で取引されるA株(中国国内投資家向け株式)のMSCI新興国指数採用が正式に決定し(実際の組み入れは今年6月)、マーケットで大きな話題となりました。A株の指数採用は中国の金融国際化に向けた一歩として評価され、中国本土の代表的な株価指数の上海/深センCSI300指数は、指数採用の発表から今年の1月の高値まで、およそ半年間で3割弱上昇しています。

今年の定例見直しの結果はというと、来年6月からサウジアラビア株とアルゼンチン株のMSCI新興国指数への採用が正式に発表されました。前者は新規採用、後者は格下のフロンティア指数からの格上げです。加えて、クウェート株が指数採用の前段階で、来年指数への採用可否が決定されるウォッチリストに掲載されました。

残念ながらベトナム株はウォッチリスト入りを逃し、現時点でベトナムの新興国指数入りは検討されていないことが明らかになりました。

懸念されたのは株式市場の反応ですが、目立った動きはなく、むしろ底堅く推移しています。現在、ベトナム株はフロンティア指数に採用されており、不動産最大手のビングループや乳製品最大手のベトナム乳業(ビナミルク)など、11銘柄が組み入れられています。

フロンティア指数の構成比を見ると、ベトナムはアルゼンチンとクウェートに次いで3番目に大きいため(15%)、アルゼンチンの格上げにより、ベトナム株の比重拡大と採用銘柄数増加への期待が株価の下支えになったと思われます。

過熱感は終了か

以前このコラムで紹介したように、ベトナム株式市場はここ数年活況を呈しており、ベトナムVN指数は昨年1年間で48%上昇するなど世界の主要株価指数で最も上昇し、さらに今年4月には史上最高値の1211ポイントをつけました。

しかし、4月中旬以降は株価が大きく反落しています。その背景には、他の新興国同様に米国の長期金利上昇を契機とした資金流出に加えて、米中貿易摩擦の激化に対する懸念があります。

さらに国内では、財務省による自動車や不動産への新たな課税案の提出(その後見送り)や、当局による信用取引規制強化の噂などが重なり、投げ売りが加速しました。特に他の株式市場に比べて値上がりのピッチが速かったため、その反動も大きかったと言えるでしょう。

VN指数の予想株価収益率(PER)を見ると、2014年から昨年中ごろまで12~14倍で推移していましたが、今年4月のピーク時には22倍近くまで上昇し、やや過熱感が見られました。しかし、足元17倍台まで低下し沈静化しつつあります。

世界を取り巻く不透明要因が払拭されない中、もうしばらくベトナム株の調整は続きそうですが、経済の高成長や政治の安定、株式市場の改革推進などベトナム株を取り巻く環境に変化はなく、中長期的な海外資金の流入が期待されます。

MSCIフロンティア指数への採用銘柄拡大期待などを追い風に、今後徐々に下値を切り上げていく展開が予想できそうです。

(文:アイザワ証券 投資リサーチセンター 北野ちぐさ)

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