はじめに
3月期決算企業の株主総会がピークを迎える中、1月期決算企業の第1四半期(2~4月期)決算の発表がほぼ出そろいました。その中に、気になる会社がありました。
「鎌倉新書」という会社です。年商わずか17億円ですが、売上高、営業利益ともに2ケタ成長を続けています。出版不況の最中に、なぜ出版社が高成長を遂げているのでしょうか。
不思議な社名のワケ
この鎌倉新書という会社。社名は出版社ですが、事業の柱はポータルサイト運営です。
もともとは仏教関連の書籍出版社だったので、今でもこの社名を名乗っていて、出版事業もやめてはいません。直近の2018年1月期の売上高は17億0,900万円で、このうち1億8,000万円が書籍出版事業の売上高です。
それでは、なぜ「鎌倉」なのでしょうか。現在の本社は東京駅近くで、法人が設立された最初の場所も豊島区です。それでも社名に鎌倉が入っている理由は、個人創業をした場所が千代田区の鎌倉橋の近くだったこと、加えて創業者が鎌倉仏教に造詣が深かったからだそうです。
鎌倉時代には、浄土宗、浄土真宗、時宗、日蓮宗、臨済宗、曹洞宗の庶民向けの6大宗派が誕生しています。これらを鎌倉新仏教、もしくは鎌倉仏教と呼び、仏教が貴族など一部の特権階級だけでなく、広く日本の国民に浸透するきっかけになりました。
ポータルサイト運営で急成長
地味な仏教関連書籍出版社を急成長企業に変貌させたのは、清水祐孝会長です。現在55才の清水会長は慶應義塾大学を卒業後、証券会社に勤務していましたが、27歳の時に創業者である父親から「事業を手伝え」と言われて、この会社に入ったそうです。
入社した際、事業の中身を見て、これでは成長できないと考え、仏教関連の情報を提供するサービスへの転換を思いついたようです。最初はお葬式の際のマナーなどの解説書を葬儀社に販促品として販売することを始め、情報を必要としている人に必要なものを最適の手段で提供するという視点に立ち、ポータルサイト運営にたどり着いたといいます。
現在、この会社は「いいお墓」「いい葬儀」「いい仏壇」という3つのポータルサイトを運営しています。「いい葬儀」は全国約800の葬儀社と提携していて、希望の地域、価格などで検索できるようになっています。2000年から始め、現在では国内最大規模だそうです。
「いいお墓」は2003年にスタートし、全国7,600件以上の墓地、霊園を掲載していて、やはり希望の地域、価格などで検索ができるようになっています。「いい仏壇」も2003年に始めていて、全国8,000店舗の仏壇屋さんと提携しています。
鎌倉新書の収益は葬儀社、霊園業者、仏壇店から入る斡旋手数料ですが、遺品整理業者や遺産相続の専門家の紹介サービスも始めていますし、要介護状態のペットの面倒を見るペットシッターサービスの会社に出資もしています。つまり、主要顧客層である高齢者の生活ニーズに業務を拡大し始めているのです。
2019年1月期も3つのポータルサイト事業を成長エンジンに、売上高22億円(前期比28.7%増)、本業の儲けを示す営業利益は5億2,000万円(同28.4%増)、当期純利益で3億4,000万円(同33.4%増)を目指すとしています。
「しなければならないこと」がわかる
鎌倉新書の各サービスのサイトは、家族が亡くなったときに「しなければならないこと」がわかり、それにかかる対価の比較検討ができます。
家族の「死」に「慣れている」人はまれです。親族を亡くすと、まず困惑するのが葬儀社選びです。病院で亡くなった場合、悲しむ間もなく病院に出入りしている葬儀業者が目の前に現れ、サクサクとコトを進めてしまうことがあります。
もちろん、こちらが仕事を依頼するかどうかの意思確認はありますが、家族が亡くなったばかりで判断力が極端に落ちている状況だと、不満や不安があってもなかなかそれを主張できません。
よほど強い意志をもって「やめてくれ」と言わなければ、あっという間に不本意な内容や条件で発注させられてしまいます。法外な価格を吹っかけられたり、後出しじゃんけん的に追加料金をどんどん上乗せされたり、という話はよく耳にします。
葬儀が終わると、霊園業者からの営業攻勢が始まります。社会がこれだけ個人情報保護にうるさくなっても、これは変わらないようです。
悲しむ間もなくやってくる営業攻勢に対抗するだけでなく、高齢者自身、自分が亡くなった時のことを考えて準備する「終活」にも、この会社のサービスはかなり役に立ちそうです。
今後の成長のカギは?
鎌倉新書は2015年12月に東証マザーズに上場し、昨年7月に東証1部に昇格しています。上場直前期の2015年1月期から直近の2018年1月期までの3年間で、売上高は1.8倍、営業利益は33倍、当期純利益は25倍になっていますし、上場当時40億円前後だった時価総額も、現在では330億円です。
それだけに市場の期待値は高く、6月22日終値ベースのPER(株価収益率)は96.52倍、PBR(株価純資産倍率)は14.84倍です。全上場会社中、PERは上から182番目、PBRは87番目です。配当は2018年1月期から開始したばかりで、配当性向は20%と決して高くはありませんが、成長性への期待が高いのでしょう。
ポータルサイトは使い勝手の良さが命です。検索機能が高く、情報件数が多くても、つながりにくいサイトは敬遠されます。何よりも「くるくるマークが出ない」、サービスを拡大してもつながりやすいサイトであり続けるためには、高水準のシステム投資を断続的に実施する必要があります。
一般に、時価総額が一定額を超えると投資家層が変わる、といわれます。最初のハードルが500億円、次が1,000億円です。いわゆる機関投資家は投資効率上の問題から、時価総額が5,000億円以上でないと投資できませんが、500億円を超えると関心を持つ小規模なファンドが増え始めます。
今のところ決算説明会資料はサービスに関するものが中心ですが、時価総額の拡大につれて投資家の顔ぶれも変わるはず。向こう数年間の設備投資についてのより詳細な説明を積極的に行えば、市場からリスクマネーを取りやすくなるのではないでしょうか。