はじめに

6月14日から始まった、サッカーの2018 FIFAワールドカップ。いよいよグループステージも終盤戦、7月からは決勝トーナメントが始まります。睡眠時間を削って深夜の試合中継をご覧になっている方も多いのではないでしょうか。

開幕2ヵ月前の監督交代劇があり、日本代表には各方面から厳しい予想の声が上がっていました。しかし、初戦は強豪コロンビアに勝利、2戦目も初戦でポーランドを下して勢いに乗っていた難敵セネガルに2‐2で引き分けました。

今回は、このサッカー日本代表という組織を題材に、組織のリーダーがチームをマネジメントする際に役立つコミュニケーション術について考察したいと思います。


両監督のマネジメントの違いとは?

マネジメントの仕事は大きく2つの側面に分けられます。組織の方針や計画を立案して実行していく「仕事の側面」と、メンバーとのコミュニケーションを通じて組織運営やメンバー育成をしていく「人の側面」です。マネジメントの役割はこの2つの側面を行い「人を通じて仕事の成果をあげる」ことです。

私はヴァヒド・ハリルホジッチ前監督も西野朗監督もいずれも大変優秀なリーダーだと考えています。

ハリル前監督は、綿密に対戦相手チームの戦術と状態を分析し、試合ごとに自チームの戦術を立てて臨みます。これらはよく「対策をたてる」と呼ばれます。ワールドカップ予選の対オーストラリア戦では見事な対策を立案し、勝利しました。

西野監督は、ガンバ大阪時代には攻撃重視の戦術を徹底的に貫き、Jリーグの優勝やAFC(アジアサッカー連盟)チャンピオンズリーグ優勝などの功績をあげ、「ガンバといえば攻撃サッカー」というクラブイメージを確立しました。

両監督とも「仕事の側面」であるチーム方針設定や戦術立案に優れたリーダーといえるでしょう。

一方、「人の側面」の選手へのコミュニケーションでは、ハリル前監督は自身の考えを強く主張して牽引するようなコミュニケーションをとり、西野監督は選手との対話を大切にしながらコミュニケーションをとるといわれています。

西野監督のコミュニケーションによって、選手の戦術理解が進み、チームとしてより一体感が増すようになったといえるでしょう。

選手別のコミュニケーション・スタイル

西野監督のような対話を大切にしたコミュニケーションを行うことは、どのような効果があるのでしょうか。私は、対話を行うことでリーダーがメンバー1人ひとりのコミュニケーションの特徴を踏まえた対応を取ることができるようになる、と考えています。

デイビッド・メリル博士らが提唱した「ソーシャルスタイル理論」では、個々人には適切なコミュニケーションの方法があるとしています。また、そのスタイルは大きく4つに大別されます。

アナリティカル(Analytical) :控えめで、自分からあまり話をせず、じっくり考えて動くタイプ。思いつきでの指示や至急対応の依頼はストレスを感じるので注意。このスタイルの新人には、考える時間を与えて、丁寧に指示をすると、きちんと仕事をこなすことができる。


ドライビング(Driving) :行動が早く、ズバッとものを言うが、感情を表に出さないタイプ。ただし、目的が不明確な仕事にはストレスを感じるので注意。このスタイルの新人には、目的を伝えて、単刀直入に依頼をすると、テキパキと仕事を進めることができる。


エミアブル(Amiable) :いつも笑顔でチームの雰囲気を大切にし、人と争わないタイプ。逆に、大きな責任や物事を決めさせるのは苦手なので注意。このスタイルの新人には、チームや他人の役に立っていることを伝え、上司や先輩がサポートしてあげると、安心して仕事ができる。


エクスプレッシブ(Expressive) :話好きでいつも大らか、気持ちが表情に出やすいタイプ。細かい指示を与えすぎるとストレスを感じるので注意。このスタイルの新人には、世間話なども交えながら褒めてあげると、調子に乗って頑張ることができる。

たとえば本田圭佑選手は、インタビューの受け答えを見ていると感情を表に出さず、自分の意見をストレートに断定的に発信しています。これらはドライビングタイプ の特徴です。

このようなメンバーには、本人の考えや意見をいったん受け取ってあげたうえで、チーム目的に対してどのように行動して欲しいかを単刀直入にコミュニケーションをとることが望ましい対応です。

一方、日本代表のキャプテン長谷部誠選手や大島僚太選手といったボランチの選手はどうでしょうか。2人とも感情を表に出すことが少なく、口数も多くないという特徴が見られるでしょう。これはアナリティカルタイプ の特徴です。

このようなメンバーには、いろいろな情報を伝えて、じっくり考える時間を与えてあげることが望ましいでしょう。

ポイントは「対応性を高める」

ソーシャルスタイル理論では、「自分のコミュニケーションが相手に受け入れられている度合い」のことを「対応性」と呼びます。これを高めることで、自身の考えや要望を受け入れてもらいやすくなります。

対応性を高めるポイントは、相手がどのスタイルかを見極めて適切な対応をすることです。そのためには、まず相手の考えや感じていることを聞きよく観察すること、まさに西野監督が実践している対話を行うことが必要です。

「人を通じて仕事の成果をあげる」ことを役割として求められているリーダーの皆さん。メンバーの言動を観察しながら対話をすることを、始めてみてはいかがでしょうか。

(写真:ロイター/アフロ)

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