2018年もまもなく折り返し地点を迎えます。足元では1ドル=110円近辺でモミ合う動きとなっているドル円相場ですが、年明け間もない1月8日に今年前半の高値1ドル=113円40銭をつけた後、3月にかけて一方的なドル安と円高が進む場面がみられました。

9円近い振れ幅があった今年前半のドル円相場の背景を振り返る中から、年後半の相場を読み解くヒントを展望してみたいと思います。


1~3月に円高が進んだワケ

今年前半のドル円相場を振り返ると、1月には「国債購入額減少による日本銀行の金融緩和縮小観測(後に否定)」や「中国による米国債購入減額報道(後に否定)」「欧州中央銀行(ECB)がフォワードガイダンス(将来の金融政策の方針を前もって表明すること)の変更を検討」などがドル売り材料となりました。

2月には、米国株が一時急落するなど金融市場の緊張が高まったことが、リスク回避の円買いにつながりました。

さらに3月には、トランプ政権の強硬的な通商政策に対する懸念や、政権中枢で辞任や更迭が相次いだこと、シリアを巡る地政学リスクの台頭などが、ドル売りとリスク回避の円買いにつながると、3月26日には今年前半の安値104円64銭を記録しています。

1~3月の値動きで特徴的だったのは、米経済指標などのファンダメンタルズや金融政策をほぼ材料視せず、前述のような「リスク回避」を主語としたモメンタム(相場の勢い)やセンチメント(市場心理)が市場を支配し、一方的なドル安と円高が進んだことです。

筆者はファンダメンタルズを無視した動きは長く続かないだろうと予想し、3月29日配信記事「1ドル=106円台を回復、円高ドル安は一巡したのか」の中で「勢いに任せてもう一段の円高となれば、中長期的には外貨の買い場になるのではないか」と指摘しました。

実際、米株式市場はその後、徐々に落ち着きを取り戻し、シリア問題は米国のミサイル攻撃を経て沈静化。貿易問題も習近平・中国国家主席が市場開放へ前向き姿勢を示したことなどから一定の落ち着きをみせると、4月以降は市場の注目がファンダメンタルズに回帰しましました。

1ドル=110円は“居心地の良い水準”

米経済指標が堅調さを維持し、6月の米連邦公開市場委員会(FOMC)に向けて利上げ加速期待が高まったことなどから、ドル円相場は5月後半にかけて111円39銭をつける場面がみられています。

しかし、このタイミングでドナルド・トランプ大統領は、それまで通商交渉を続けてきた欧州連合(EU)や中国などに対する関税引き上げを6月にもスタートする方針を発表。貿易戦争リスクが再燃し、ドル円相場は上昇トレンドを止められてしまいました。

一方で、その後も米国経済は堅調さを示し、これを背景にFRB(米連邦準備制度理事会)が利上げペースを加速させる方針を示したことなどが、ドル円相場を下支え。結果、6月終盤にかけて、1ドル=109~110円台でモミ合う動きがみられています。

この110円近辺は、過去約1年の平均値である200日移動平均線が走っており、比較的居心地の良い水準なのかもしれません。この水準でモミ合いつつ、貿易問題の成り行きを見守っているような状況とも考えられます。

年後半は金融政策が下支え要因に

2018年後半も、経済のファンダメンタルズや金融政策、そして貿易問題などが市場で材料視され、ドル円相場のドライバーとなる可能性が高いと考えています。日米金融政策は年末にかけてドル円相場の下支え要因として機能しそうです。

6月に行われたFOMCでは、大方の予想通り0.25%の利上げを実施。2018年の実質国内総生産(GDP)、2019年にかけてのインフレ率、2020年にかけての失業率などの見通しも3月のFOMC時に比べて改善方向に修正し、2018年および2019年の政策金利予想水準も引き上がり、利上げペース加速も示唆されています。

また、6月に行われた日銀金融政策決定会合では、金融政策の現状維持を決定。声明もおおむね前回の内容を引き継ぐ内容でしたが、物価の現状判断について前回「1%程度」としていた部分が「0%台後半」に引き下げられました。

日銀は消費者物価の2%を目指して強力な緩和を続けていますが、これがより長期化する可能性が高まっており、物価見通しを引き上げた米国との格差も鮮明です。日米金融政策の方向性は金利差などを通じ、ドル円相場を下支えていくとみています。

貿易戦争懸念は秋にも終息か

ただ、足元で警戒が強まっている貿易問題が報復関税の応酬となり、貿易戦争に突入した場合には、ドル円は大きく下落する可能性があり、注意が必要です。

トランプ政権の通商政策を嫌気したドル売りとリスク回避の円買い、それだけではなく米国経済への悪影響はFRBの利上げをストップさせ、世界の金融市場にも大きなダメージを与えるとみられるためです。

ポイントは、トランプ大統領がどこまで強硬路線を突き進むかにかかっていますが、以下の理由から、夏から秋にかけてこの問題は決着に向かうと予想しています。

(1)トランプ大統領にとって11月6日の米中間選挙に向けたパフォーマンスの一環であるとみられること
(2)米国経済と金融市場に与えるダメージがかなり大きくなること
(3)結局、関税引き上げによる物価上昇は米国の消費者が負担することになり、行き過ぎは支持を失う可能性があること

しかし、その手前では、トランプ劇場で対中国、対欧州との激しいやり取りが繰り広げられる可能性があります。これはドル円相場の上値を押さえる要因となるでしょう。

ドル円相場は夏場にかけてファンダメンタルズと金融政策が下支え、貿易戦争懸念が上値を押さえる状況が継続すると予想しています。前述の居心地の良い水準である200日移動平均線を中心に、プラスマイナス1.5%程度のレンジである108円台半ばから112円程度が主戦場になるのではないでしょうか。

その後、貿易戦争リスクが後退すれば、改めて金融政策の方向性の違いなどを背景に、年末にかけてはこのレンジを上抜いて、ドル高円安が進む展開をメインシナリオにしています。

(文:みずほ証券 チーフFXストラテジスト 鈴木健吾)