はじめに
6月は米朝首脳会談や米FOMC、OPEC総会といった政治・経済イベントが豊富で、貿易摩擦問題等を巡るトランプ大統領の発言なども収まることなく、引き続き株式市場を取り巻く環境には様々な不安要因がありました。しかし、事の重大さに比して、市場はファンダメンタルズを見極めようという冷静さを取り戻しつつあるようです。
市場が注視するファンダメンタルズは好調です。米国はS&P500社ベースで2018年に20%を超える増益が予想され、2017年の12.8%増益から加速すると見られています。
こうした好業績を背景に、各社とも将来への布石を打つべく、投資を積極化しています。その中でも、生産性の向上や付加価値創出を意図したIT(情報技術)投資が増えていくとみられます。
クラウドとAIがIT市場を牽引
IT投資のけん引役がクラウドでしょう。クラウドサービスとは、ネットワーク上に置いたIT機器やデータ、ソフトウェアを、通信回線を通じて利用する各種サービスの総称です。ユーザー企業は自前の情報システムを構築するのに比べてコストを削減できるうえ、システム導入までの時間も短縮できるため、世界的に需要が伸びています。
実際、クラウド、特にパブリッククラウドサービス市場は年20%程度の高い成長を続けています。とくに最近では、大企業を中心に大量のデータやソフトを扱うようになってきたことから、これらを巨大なデータセンターで一括管理するクラウドを使う傾向が強まっているようです。
今後は、近年目覚ましい進化を遂げているAI(人工知能)も、IT市場のけん引役として躍り出てくるとみられます。AIは、クラウドによるコンピューター能力の向上、膨大なデータ、機械学習の躍進が重なり、その進化が加速しています。
応用分野として、自動運転やロボットに注目が集まっていますが、究極的には、人と対話しながら生活や仕事に必要な作業をこなすといった形で、活用範囲は大幅に広がるとみられます。
注力せざるを得ない背景とは
クラウドやAIの活用は、企業の収益性や成長性のカギを握るため、その分野への投資などの手綱を緩めるわけにはいかないとみられています。したがって、景気動向いかんにかかわらず、拡大していく市場との位置づけは変わらないのではないでしょうか。
コスト削減の観点からも、クラウドの活用は不可欠です。クラウドを使うことによって、ユーザー企業は自前の情報システムを構築するといった巨額の初期費用を負担することなく、最新のサービスを利用できるためです。
さらに、AIを活用することで、日本など先進国を中心とした少子高齢化に伴う労働力不足問題に対する解決の糸口になる可能性があります。今まで人間でなければできなかった分野、例えば、オフィスなどにおけるホワイトカラーの業務、運転など物流の分野、あるいは介護などのサービス分野などが、将来的にAI(AIを搭載したロボット)に置き換わるとみられます。
また、ITの進化に伴うサービスの構造変化がクラウドやAIの活用を促している面もあります。代表例が、小売業界にみられるネット通販(Eコマース)の拡大でしょう。小売業界では、店舗による販売からネット通販に急ピッチで置き換わっています。米国では、アマゾン・ドット・コム(以下、アマゾン)などがネット通販を伸ばしており、米小売最大手のウォルマートをはじめとする実店舗を持つ企業もネット通販強化へ動き出しています。
IT投資はコスト削減や人手不足への対応に寄与するだけでなく、IT技術の進歩を通じたサービスの構造変化などをもたらし、さらにIT投資を加速せざるを得ないという連鎖を引き起こしているのではないでしょうか。
IT企業、将来への布石は着々と
IT投資の拡大は、IT需要の高まりといった形で、サプライヤーであるIT企業の設備投資の増加も促しています。
アルファベット、アップル、アマゾン、マイクロソフトの4社はこの1~3月期で180億ドル(約2兆円)もの投資を行いました。単純に4倍した形での年換算の投資額は約700億ドル(約8兆円)にも達します。これらの投資はサービスの拡充につながり、さらに多くの顧客を取り込むといった好循環が生じています。
強い企業(IT企業)はますます強くなるという構図が一段と鮮明になっていくと考えられます。
(文:大和証券 投資情報部 花岡幸子)