はじめに
10月20日夜、任天堂が4年ぶりの本格的新型ゲーム機「Nintendo Switch(ニンテンドースイッチ)」を発表した。この発表を受けた10月21日午前の任天堂の株価は前日比1,925円安(マイナス7.1%安)と大幅に下落した。つまり、新型ゲーム機の発表は投資家を失望させたことになる。
任天堂の発表を見てみると「スイッチ」は製品としてはよくできているように思う。据え置き型のゲーム機であると同時に、コントローラーを分離すれば携帯ゲーム機として持ち運ぶこともできる。さまざまな場所で同じゲームを楽しむことができるというのは新しいライフスタイルの提案である。
にもかかわらず任天堂に投資家が失望した理由は何だろうか。
投資家が株を売りとしたということは、結論ははっきりしている。「スイッチ」を始めることで「任天堂にこれまで期待していたような未来の利益は期待できない」と投資家が考えたということだ。
では投資家は何に失望したのか? 2つの失望がその背景にある。
任天堂に投資家が失望した?でもその理由は?
任天堂に対する投資家の2つの失望。その最初の失望はスマホの土俵にのっかったうえで他のスマホゲーム会社を駆逐していくのではないかという希望に対する失望だ。
そもそも任天堂の株価が息をふきかえしたきっかけはポケモンGOの成功だ。任天堂のゲーム資産を使い、そこで全く新たなゲームについてのライフスタイルを提案することで、従来のスマホゲーム会社を飛び越して任天堂が再びゲーム業界の盟主になる。そのような新たなシナリオを彷彿とさせたのがポケモンGOだった。
任天堂の創意工夫があれば、スマホという世界共通の基盤の上でもゲーム業界の覇者となる。その方向に経営資源を振り向ければ任天堂は決してこのまま終わる企業ではない。
今年夏以降に投資家が抱いたこのような夢を打ち砕いたのが「スイッチ」だ。それはどういうことか?
投資家が期待していた大きな挑戦を回避した任天堂
新しい本格的なゲーム機を発表したということは「スイッチ」にこれから先の任天堂の主力ゲーム開発部隊のリソース(資源)が振り向けられるというメッセージである。つまり、任天堂はスマホという主戦場で戦うことを避け、自社ゲーム機というスマホと比較すればマーケットは小さいが戦いが楽な戦場を選んだということだ。
麻雀で言えば任天堂は「安目あがりを選んだ」ことになる。
背景としての事情がわからなくもない。若くして亡くなった前社長である岩田聡社長が肝いりでスマホに対抗する製品として楽しみにしていた新型ゲーム機が「スイッチ」なのだ。前社長の急逝後に登場したポケモンGOで新たなチャンスが生まれたとしても、過去のレガシーをそこで断ち切るには人情的には難しい状況だったのだろう。
しかし投資家は、社員よりもはるかにドライである。最強の挑戦者になるのではと期待していた任天堂が「戦わない」と表明したことで、将来の世界チャンピオンを期待していた人々はすーっと任天堂を離れ始めた。
さらに「スイッチ」が投資家を失望させた理由がもうひとつある。
最先端分野のゲーム競争には参加できそうにない「スイッチ」
投資家が「スイッチ」に失望したもうひとつの理由。それはソニーの「プレイステーションVR」と比較したときの中途半端感だ。
スマホは世の中で一番広くいきわたっているゲーム基盤である。ではそのスマホ以外の部分でゲームユーザーがもう一台、どうしても買いたいと思うゲーム機があるとすればそれは何か?
「スマホでは到底体験できないゲーム機」
それが解になる。すでに歴代プレイステーションはその方向で実力を研ぎ澄まし、万を持して登場したのが仮想現実技術を盛り込んだ「プレイステーションVR」だった。
それと比較して、一見しての情報で言えば「スイッチ」が「プレイステーションVR」よりもすごい世界を見せてくれそうだという期待はまったく持てない。おそらくユーザー数最大のスマホゲームと、ぶっ飛んだプレイステーションワールドの中間にすっぽりとはまりこんで身動きがとれなくなるのではないか。
どちらの世界でも勝てる感じがしない。そこに投資家が任天堂に対して失望した大きな理由が存在しているようだ。