はじめに
他人の収入を知りたい。でも、知ったら知ったで嫉妬したり、優越感を持ったりする――。そんな人間の“性(さが)”をくすぐるような調査を、大手信用調査機関の東京商工リサーチが毎年この時期に実施しています。
題して「役員報酬1億円以上開示企業調査」です。今年は、どの企業のどんな役員がどれくらいの報酬を受け取ったのでしょうか。
どんな調査をやっているのか
かつての日本企業は役員の報酬決定を社長に一任するのが一般的で、役員同士でもお互いにいくらもらっているのか知らないものでした。しかし、貢献に見合わない報酬を受け取る役員がいては、株主としても放置できません。
また、役員何人分で総額いくら、とだけ開示されても、その配分がわからなければ株主は判断できません。こういった不満が主に海外の投資家から出たことを受け、上場会社は2010年3月期から、1億円以上の報酬を得た役員については、誰がいくらもらったかの個別開示を義務づけられるようになりました。
開示媒体は有価証券報告書です。制度上は、有価証券報告書は株主総会前に提出することが可能ですが、総会前に提出する上場会社はごくわずか。大半は総会終了の翌日に提出します。このため、3月決算企業の総会が終わるこの時期に集計して発表しているのです。
トップの平井氏は退職金が底上げ
かつてこのランキングは、偉大な創業者や中興の祖が顔をそろえていました。長年トップを務めた人が大半だったので、報酬額を引き上げている原因は主に退職金でした。
しかし、昨年辺りから様相が違ってきています。業績連動報酬やストックオプションが高額であるためにランキングに登場している人が顔をそろえています。つまり現役で、これからまだまだ業績を上げることを期待されている人たちです。
トップはソニーの前社長・現会長の平井一夫氏です。報酬の総額は27億1,300万円ですが、このうち基本報酬はわずか2億4,400万円です。
今でも取締役ですが、「代表取締役社長」としての退職金11億8,200万円を、現金ではなく株式で受け取っていて、これが全体を底上げしているのは間違いありません。ですが、業績連動報酬も6億4,700万円、付与されたストックオプションも20万株分(1株当たり公正価値の2,045円で換算すると4億0,900万円)あります。
ちなみに退職金で底上げされているのは、上位20位以内では扶桑化学工業の赤澤良太氏くらいです。赤澤氏は創業一族出身の社長でしたが、51歳の若さで退いています。
2~5位は外国人経営者が席巻
2位から4位はすべてソフトバンクグループの外国人取締役で、3人合計で実に46億3,100万円。このうち株式報酬は3人合計で33億7,700万円を占めます。孫正義会長兼社長は1億3,700万円しかもらっていませんが、配当金で100億円も得ているので構わないのでしょう。
武田薬品工業のクリストフ・ウェバー社長も12億1,700万円のうち、半分強の6億2,900万円は「長期インセンティブプラン」という報酬の対象期間に応じて複数年度にわたって費用計上する報酬制度に基づく報酬です。昨年は10億4,800万円、一昨年は9億0,500万円でした。
LIXILグループも、創業家出身で取締役会議長の潮田洋一郎氏の役員報酬は1億2,200万円ですが、社長の瀬戸欣哉氏は11億2,700万円です。このうち、8億6,700万円が業績連動報酬です。
何しろ瀬戸氏は2016年1月にLIXILに社長として外部招聘され、着任直後の2016年3月期こそ256億円もの最終赤字を余儀なくされましたが、翌2017年3月期は425億円の最終黒字へとV字回復に導き、続く2018年3月期は最終黒字を545億円へと伸ばした功労者です。これだけもらっても異議を唱える人は誰もいないはずです。
隠れた好業績企業を見つけるヒントに
一方、最悪のタイミングとなってしまったのはスルガ銀行です。開示対象になったのは、岡野光喜会長(1億9,700万円)、岡野喜之助元副社長(5億6,500万円)、米山明広社長(1億6,800万円)の3人。18位にランクインした岡野喜之助氏は岡野光喜会長の実弟で、副社長を務めていた2016年7月に69歳で急逝されているので、死亡退職金です。
スルガ銀行はシェアハウス関連の不正融資問題が今年4月に発覚しています。2018年3月期の有価証券報告書に開示されている報酬は、2017年3月期の総会で承認を得て、2018年3月までに支払われた分ですので、支払いが済んだタイミングで不祥事が発覚したことになります。
現在、第三者委員会が調査を進めており、この結果が出たところで役員の経営責任を明かにすると言っています。場合によっては、2018年3月期にもらった報酬の返還などもあり得るかもしれません。
かつてこの調査で、トップが巨額の報酬を取ったせいで大赤字になった会社がありましたが、そういう会社は極めて例外的です。誰もが知っている有名企業以外に、知らない会社をランキングで見かけたら、どういう会社か調べてみると、知る人ぞ知る好業績企業に出合えるかもしれません。