はじめに

米中間の貿易紛争が激化の様相を呈しています。当初は、ドナルド・トランプ大統領が交渉術の一環として、中国に対する制裁関税案を発表したと見る向きもありましたが、その後の貿易協議においても交渉がまとまることはなく、7月6日にはそれぞれ340億ドル相当の輸入品に対する追加関税を発動するに至りました。

一方で、年初に2万3,073円73銭で取引を開始した日経平均株価は、このレポートを執筆している7月17日時点で2万2,697円36銭と1.6%の下落に留まっており、株式市場全体への影響は限定的となっています。しかしながら、実際にはもっと影響が出ている、と感じている個人投資家も多いのではないでしょうか。


海運、非鉄金属、鉄鋼が値下がり

まず、米中貿易紛争のこれまでにどのような経過をたどってきたのか、整理したものが下表になります。

【米中貿易紛争の推移】

3月22日【米】 中国の知的財産侵害に対する制裁措置の大統領令に署名
3月23日【米】 中国などの鉄鋼とアルミに輸入制限を発動
4月2日 【米】 鉄鋼輸入制限に対する報復関税を発動
4月3日【中】 中国の知的財産侵害に対する制裁関税の原案発表
4月4日【中】 制裁関税案に対する報復を表明
6月15日【米】中国の知的財産侵害に対する制裁関税を再表明
6月15日【中】 制裁関税案に対する報復を表明
6月18日 【米】 制裁関税の対象が最大4,500億ドル規模と発表
7月6日【米・中】 340億ドル分の追加関税を発動

こうした状況を受け、今年の株式市場は業種間で値動きが大きく異なっています。下のグラフは東証1部の33業種別株価指数のうち、年初からのパフォーマンスが良好な「電気・ガス業」「医薬品」「水産」 業と、厳しい値動きが続いている「海運」「非鉄金属」「鉄鋼」業を比較したものです。

米中の貿易紛争では、鉄鋼やアルミニウムといった分野が真っ先に槍玉に挙げられました。株式市場ではこのような動きを素直に反映し、関連する「海運」「非鉄金属」「鉄鋼」といった業種が大きく下落しています。

一方、米中貿易紛争とは直接的には影響を受けづらい「電気・ガス業」「医薬品」「水産」といった業種は堅調な値動きを続けています。こちらは、トランプ政権の貿易政策を警戒した資金が流れ込んでいることが、株価を支えているのです。

今後求められる投資戦略は?

このように株式市場にすでに大きく影響を与えているトランプ大統領の貿易政策ですが、米国では中間選挙が近づいており、中国との争いは政治的なパフォーマンスにつながるという側面があります。また、米国経済が好調なため、貿易戦争による悪影響を受けづらく、トランプ大統領がちらつかせている追加関税の影響を受ける業種は広がっていくものと予想されます。

最近では、中国のハイテク企業の競争力強化を狙った政策である「中国製造2025」の撤回を要求しましたが、これにより機械や電気機器といった業種が大きな影響を受け始める可能性があります。

今後もトランプ政権の貿易政策の中身をよく確認し、買いから入る業種、売りから入る業種を見極める必要があるといえるでしょう。

(文:松井証券 シニアマーケットアナリスト 窪田朋一郎)

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