はじめに

安全配慮義務違反を問われる可能性

櫻町弁護士: 労働契約法第5条は『使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする。』と規定しており、使用者は、業務遂行に際して労働者の生命等に危険が及ばないように配慮すべき義務(安全配慮義務)を負っています。

ですから、出勤・就労によって労働者の生命等に危険が及ぶことが具体的に予見できたのに、あえて出勤・就労を命じた結果、労働者が怪我をしたような場合には、使用者が『安全配慮義務違反』として損害賠償責任を負う可能性があります。

この点について、昭和54年7月、熊本県人吉市大塚町において、人吉営林署の職員5名が乗車したマイクロバスが土石流に押し流され川に転落し、職員5名が死亡したという事故について、大雨洪水注意報が発令されているにもかかわらず、林道の補修作業等に就労するよう命じ、降雨のため山が崩壊するなどの危険が発生したにもかかわらず下山を命じなかったことなどが安全配慮義務違反にあたるとして損害賠償請求がなされた事案で、裁判所は、

「通勤路、職務の内容からみて降雨、風、雷等の気象状況によつては、作業員の生命、健康等に危険の及ぶことが予測されるから、被告は前記安全配慮義務の一内容として当日の天候、気象予報、通勤路、現場の状況等から判断して、当日就労させることにより職員の生命、身体に現実に危険が及ぶ高度の蓋然性が認められる場合には、職員を就労させない義務を負いまた一旦就労させたのちにおいても、気象状況等の変化に伴い、そのまま就労させていることにより職員の身に危険が及ぶ高度の蓋然性が認められるに至つた場合には、その後の就労を中止し、下山その他の措置をとり安全を確保すべき義務を負うものというべく」

と判示しています(熊本地裁昭和60年7月3日判決・判タ 567号230頁)。

ただし、

「被災者5名を就労させたことは相当であつて、安全配慮義務に反するものということはできず、また、就労後における豪雨及びこれによる災害の発生を予測しなかつたことについて同主任に故意、過失があるものとは認められない。」

として、結論としては損害賠償責任が否定されています。

したがって、使用者においては、震災等の災害が生じた場合には、情報収集により事態の的確な把握に努めるとともに、安易な出勤命令を出して労働者の生命等を危険にさらすことのないよう、留意すべきといえましょう。

最後に

櫻町弁護士がおっしゃるように、経営者や管理職者は、自分の出勤命令で部下が生命の危険に晒されることにならないかどうか、きちんと考える必要があり、それを怠った場合は安全配慮義務違反となります。

そして労働者は基本的には会社の言うことに従う義務はありますが、身体、健康に危険が及ぶ可能性があることが具体的に予見される場合には、業務命令に背いても問題ありません。

混乱時だからこそ、お互いに相手に配慮した対応が求められます。

取材・文:櫻井哲夫

元記事:大阪地震でも頻発! 災害時の「出勤命令」に従う必要があるのか弁護士が解説

(記事提供/シェアしたくなる法律相談所

取材協力弁護士:櫻町直樹(パロス法律事務所。弁護士として仕事をしていく上でのモットーとしているのは、英国の経済学者アルフレッド・マーシャルが語った、「冷静な思考力(頭脳)を持ち、しかし温かい心を兼ね備えて(cool heads but warm hearts)」です。)

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