はじめに

通常とは逆の、東から西へという異例の進路をたどった台風12号が関西地方を襲った7月29日。筆者は現地取材の目的で、定刻より約6時間遅れたフライトでベトナムに向かいました。

このたびのベトナム出張においては、1週間の日程でホーチミンとハノイを訪れ、上場企業や証券会社とミーティングを行ったほか、大規模不動産プロジェクトや、ショッピングモールなどの近代小売店舗を巡り、勃興するベトナム経済の現状を肌で感じてきました。

今回は、そんなベトナムの“今”を報告します。


建設ラッシュを牽引する巨大財閥

ホーチミンとハノイは地盤が弱いため道路が沈下し、歩道のあちらこちらに大きな段差が生じていたものの、以前はほとんどなかったショッピングモールやコンビニエンスストアなどの近代的な小売店舗が増え、高層マンションの建設ラッシュに沸いていました。

また、朝晩のラッシュ時は、一見無秩序ながらもそれなりに秩序をもって走っている自動車とバイクの大群に、高度経済成長期の活気を感じました。

最も印象的だったのは、大手企業グループのビングループの勢いです。立地条件の良いところでは、必ずといっていいほど不動産子会社のビンホームズが大規模開発を行っていました。

そんなビングループの状況を調査すべく、ビンホームズがホーチミンで手掛ける代表的なプロジェクト「ビンホームズ・セントラルパーク」を訪れました。

ビングループに見えた強さと危うさ

ホーチミン中心街の1区から約2キロメートルと至近に位置し、市内最大規模となる40ヘクタールの敷地の中には100戸近い高級ヴィラに加えて、40~50階建ての高層マンション18棟が林立しており、圧倒されました。総戸数は1万戸以上に上ります。

さらにこれら物件価格は、マンションが3000万~5000万円、ヴィラが数億円と高級物件にもかかわらず、不動産購入者の大部分はベトナム人だといいます。統計には表れない購買力の大きさに驚かされます。

敷地内には他にも、インターナショナルスクールのビンスクールや、私立病院のビンメック国際病院、ショッピングセンターのビンコムセンター、コンビニエンスストアのビンマート・プラスなど、ビングループが運営する施設が点在。年内には、アジア最高層となる「ランドマーク81」(高さ461メートル、地上81階建て)も完成する予定です。

このように隆盛を極めるビングループですが、近年相次いで新事業への参入を発表しており、証券関係者の間では資金繰りの面で不安視する向きも増えているようです。

同社によると、2019年中にスマートフォンの製造を、2019年末に自動車の製造を開始し、時期は未定ですが製薬事業への参入も発表しています。特に自動車産業への参入は巨額の投資を必要とするため、近い将来、多額の資金調達も予想されます。同社の動向を見守る必要もありそうです。

成長性が感じられた4銘柄

今回は上場企業9社への取材を行いましたが、次のような企業に成長性を感じました。

(1)ホアファットグループ[業種:鉄鋼]
ベトナム最大の鉄鋼メーカー。現在、中部ズンクワット経済区に小型高炉4基を備えた鉄鋼コンプレックスを建設中。2019年にこの高炉一貫製鉄所が稼働すれば、同社の年産能力は3倍に増加。需要拡大が続くベトナム建材市場で、同社の存在感は一層高まる見通し。
(2)バオ・ベト・ホールディングス[業種:保険]
ベトナム最大の保険会社で、生保、損保ともに国内シェアトップ。ベトナムの保険業界は黎明期にあたるため足元の成長は緩やかであるものの、同社は直近2年間、業界平均の2倍の速度で成長。中間層の増加や都市化の加速などを背景に、長期的な成長加速が見込まれる。
(3)ベトナム石油総公社(ペトロリメックス)[業種:化学]
石油・ガソリンの供給で国内シェア5割、ガソリンスタンド2,500ヵ所を運営。政府がレギュラーガソリンから移行を進めるバイオ燃料「E5」を国内で唯一提供。直近3~4年は額面比30%以上の配当を実施。会社側はしばらく高配当を維持する方針。
(4)ベトナム乳業(ビナミルク)[業種:食品]
ベトナム最大の乳製品メーカーで、牛乳の国内シェアは約6割。成長過程での一時的な需要の停滞から足元の業績は減速気味であるものの、国内シェアは拡大。ベトナムの乳製品市場の成長が見込まれる中、リーディングカンパニーとして安定成長が期待される。

最高値から25%下落で過熱感は解消

代表的な株価指数であるベトナムVN指数は、それまでの急ピッチな上昇の反動や、ドル高を背景としたASEAN(東南アジア諸国連合)市場からの資本流出、海外市場の変調などを受け、4月につけた史上最高値から一時25%以上下落しました。

これにより、VN指数の予想株価収益率(PER)は4月のピーク時には22倍近くまで上昇し、やや過熱感が見られたものの、足元では17倍台まで低下。沈静化しつつあります。

現地証券関係者の間でも、株価調整は外部要因が主たる要因であるため、海外市場が落ち着いてきたらベトナム株の反転が期待できるのではないか、との楽観的な見方が大勢でした。

成長性の面から考えると、ベトナムは依然として有望な市場の1つであると見ています。来るべき日に備えて、今はじっくりと有望な企業を探す時期ではないでしょうか。

(文:アイザワ証券 市場情報部 北野ちぐさ)

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