はじめに

米8月雇用統計は極めて強い内容

9月7日(金)に発表された米8月雇用統計は、平均時給伸び率が予想中心値前年比+2.7%に対して同+2.9%と速報値ベースでは1月分以来の上昇率となりました(但し、後に+2.8%に下方修正されています)(下図)。


非農業部門就業者数も予想中心値前月比+19万人に対し+20万1千人と強い内容でしたが、前月・前々月分が5万人下方修正されたので、見掛けほど強いという判断はなされませんが、前月比引き続き極めて強い内容となりました(下図)。

米利上げは予定通り行われる?

9月25~26日に予定されている米FOMCでの0.25%利上げはすでにほぼ確実視されていますが、今回の米雇用統計はさらに利上げ観測を強める内容だったといえるでしょう。

一部では、「12月18~19日に予定されている米FOMCでの利上げ見通しも強まった」との見方も出ていますが、今回の米8月雇用統計で12月の米利上げまでを期待することは出来ません。

なぜなら、「単月の指標は修正される可能性が高い」ことや、「トランプ関税の米経済(個人消費、製造業の業況)への影響の顕在化はこれから」だからです。

米雇用統計を受けて、その日のドル円は110円台後半から111円台前半まで上昇しました。しかし、前日の「米貿易摩擦の次のターゲットは日本」との米ウォール・ストリート・ジャーナル紙のオピニオン記事で、米保護貿易懸念・トランプ恫喝懸念が強まっていたことで、ドル円の上値は重く、ドル買いは続きませんでした。

政権内のゴタゴタから米国民の目を逸らせたいトランプ大統領

先週末になって、トランプ大統領の通商問題恫喝が急に増えてきました。米8月雇用統計が発表された数時間後にも、突然新たな対中国関税や対日貿易赤字批判が報道され、ドル円は110円台後半まで下落しました。

その理由と思われるトランプ政権を揺るがす出来事が、トランプ恫喝が激化する直前に起きていたようです。

9月4~5日、米国の主要紙が、トランプ米大統領が政権内部から組織的な抵抗に遭っていたり、政権高官がトランプ米大統領の職務遂行能力に深刻な疑念を呈している実態が書かれた暴露本が発売されると報道しました。

11月6日の米中間選挙まであと約2ヶ月。通商問題で際立った成果が見られない中での暴露本や支持率低下(米下院で共和党劣勢)から米国民の目を逸らせるために躍起になっているとしか筆者には見えません。

トランプ関税が米共和党の支持率を下げていることに大統領自身が気付く日は来るのでしょうか。あるいは、米中間選挙ぎりぎりまで引っ張って「打開」「合意」という演出をしたいだけなのでしょうか。

1987年に発刊されたトランプ大統領の自叙伝「The Art of the Deal」でも触れられている「撤回を計算に入れた恫喝」なのか、答えはもうすぐ出てくるかもしれません。

(文:大和証券 チーフ為替ストラテジスト 今泉光雄 写真:ロイター/アフロ)

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