はじめに

見慣れた赤い袋を開けると、ふわりと漂う香ばしい匂い。そのまま1粒、口に含むと、幸せな甘さがジュワッと口中に広がります――。

ほとんどの日本人が一度は食べたことがあるであろう、コーン菓子の代名詞「キャラメルコーン」。製造・販売元の東ハトは9月11日、その新商品の発売を発表しました。

毎年20~30種類の期間限定商品を投入しているというキャラメルコーン。しかし、今回の新商品は、これまでの期間限定商品とは大きく異なる特徴を持っているといいます。新商品に託した東ハトの戦略とは、どんなものなのでしょうか。


謎豆が引き立てるナッツとチョコの味

東ハトが9月17日から発売するキャラメルコーンの新味は、「よくばり3種の香ばしナッツ味」「カカオ3種のまろやかチョコ味」の2種類(希望小売価格は税抜き122円)です。

ナッツ味は、ヘーゼルナッツペースト入りの蜜とアーモンドパウダーを振りかけることで、深みのある香ばしさを引き立てた点が特徴。チョコ味は、まろやかなガーナ産、ナッツのような香ばしさのあるベネズエラ産、キレのあるドミニカ産という3種のカカオを使用し、深みのある味に仕上げたといいます。

2商品には、赤いパッケージでお馴染みのオリジナルと共通する2つの特徴があります。1つは、期間限定の販売ではなく、通年で店頭に並ぶ定番商品である点。もう1つが、隠れ愛好家の多い“謎豆”が入っている点です。


ナッツ味(左)、チョコ味とも“謎豆”の姿が確認できる

毎年20~30種類投入される期間限定商品のほとんどには、この謎豆が入っていません。謎豆の風味がフレーバーの邪魔をしてしまうというのが、その理由。しかし、今回のナッツ味とチョコ味は謎豆が入ることで、より味わいが引き立つように配慮したといいます。

知られざる“謎豆”の重要な役割

そもそも、この謎豆が何かといえば、皮付きのローストピーナッツ。工場ででき立ての温かい状態のキャラメルコーンの上からかけることで、香りや風味、渋みを移行させるために入れているそうです。

工場のラインから輸送工程を経て、店頭に並び、客が持ち帰るという一連の流れによって、袋の中でキャラメルコーンと謎豆がほどよく混ざります。その結果、塩昆布のように、甘さの途中で塩気がリフレッシュし、甘さや香りを引き立てる役割を果たすのだといいます。

「ローストピーナッツなしでキャラメルコーンは語れません」。東ハト・商品開発部の武田翔さんは、そう言って胸を張ります。ただ甘いだけでは食べている人がすぐに飽きてしまうと考え、1971年の発売当初から入れていたそうです。

しかし、前述のように、赤いパッケージのオリジナル以外の商品には、ほとんど謎豆を入れてきませんでした。「ずっと入れたいと考えていましたが、なかなか納得できる味ができなかったのです」(武田さん)。

比率逆転商品の盛り上がりがヒントに

そんなキャラメルコーンに転機が訪れたのは、今からちょうど1年前。あるコンビニバイヤーの一声から、キャラメルコーンと謎豆の比率を逆転させた「キャラメルコーンのピーナッツ」を発売したことでした。数量限定で販売したこの商品が、ファンの間で話題となり、東ハトはピーナッツ熱の盛り上がりを実感したといいます。

謎豆入りの新しい定番商品を作る――。計画が具体化したのは今年初頭のこと。2月から手作業での試作が始まりました。「思い出すのも嫌になるくらい、たくさんのパターンを試しました」と、武田さんは振り返ります。

特に難航したのが、チョコ味でした。子供向けのお菓子っぽいチョコ味だと、すぐに食べ飽きてしまう。チョコ感を追っても、チョコレート菓子には勝てない。では、キャラメルコーンが勝てる要素は何なのか。その結果、たどり着いたのが謎豆でした。

ローストピーナッツを生かすには、どうすればいいか。いろいろな産地のチョコを組み合わせていったそうです。そうして数ヵ月の試行錯誤の結果、今回の3種のチョコ味を導き出しました。

定番商品を深掘りする戦略

市場調査会社のインテージによると、国内のスナック菓子市場は停滞気味で推移しているといいます。原材料別で内訳を見てみると、ポテト系が好調を維持しているのに対し、コーン系と小麦系が縮小傾向にあります。

キャラメルコーンはコーン系スナック菓子でトップシェアを誇ります。今回の新定番商品の投入は、こうした市場の現状に対してテコ入れをする意味合いもあると考えらえます。

東ハトの武田さんは「世の中で定番回帰や安定志向の需要が高まっていて、昔から知っている定番商品を買う傾向が強まっている」と分析します。

こうした市場環境下で適しているのは、定番をより深掘りしていく戦略。キャラメルコーンのスタンダードとは何かを考えると、それはピーナッツにほかなりません。謎豆にマッチした新しいフレーバーの定番商品を投入することは、時流に合わせた作戦でもありました。

「赤パッケージに並ぶくらいの定番商品にしてきたい」と、武田さんは意気込みます。オリジナルと今回の新商品2種を「ピーナッツトリオ」として展開。その先に、誰からも愛されるユニークな商品を出していく、という青写真を描いています。

謎豆パワーで、既存のファンはもちろん、休眠顧客をどこまで掘り起こせるか。コーン系スナック菓子市場の復権は、キャラメルコーンの双肩にかかっています。

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