はじめに

日本の株式市場でメインプレーヤーといえば、外国人投資家でしょう。売買シェアは6~7割を占めており、株価の上昇局面ではリード役となるケースも少なくありません。

一方、海外勢と並んで存在感を増しているのが日本銀行です。「量的金融緩和策の一環として実施している日銀の指数連動型上場投資信託(ETF)の買いが相場を下支えしている」と市場関係者は口をそろえます。


「ステルステーパリングなのか」

日銀による年間の買い入れ目標は年間6兆円。このうち、3,000億円は「設備・人材投資に積極的に取り組んでいる企業を支援するためのETF」の購入に充当し、残りの5兆7,000億円を東証株価指数(TOPIX)、日経平均株価、JPX日経400の3指数にそれぞれ連動するETFの購入へ振り向けています。

日銀が7月に行った金融政策決定会合でも、6兆円という目標額を維持。にもかかわらず、市場には一時、「日銀がステルステーパリング(隠れた緩和縮小)へ動き出したのではないか」との観測が浮上しました。

というのも、設備・人材投資関連を除いた8月のETF買いの額が1,406億円にとどまったからです。日銀が2016年7月の金融政策決定会合でETFの購入額を従来のほぼ倍の6兆円へ引き上げて以降、月間ベースで最も低い水準になったのです。

最近の市場で取り沙汰されていたのが、午前中のTOPIX終値が前営業日比でマイナス0.3%超値下がりすると日銀のETF買いが入るという「基準」です。

ニッセイ基礎研究所の井出真吾チーフ株式ストラテジストが作成した上のグラフは、今年4~8月に前場のTOPIXが0.3%超下落した時点でETF買いが入ったか否かを示したもの。8月後半には、下落率が0.3%を超えても日銀がETF購入を行わなかったことが読み取れます。

9月に再び買い入れが増えたワケ

もっとも、9月に入って、日銀のETF買いは再び増加。購入に踏み切ったのは13日時点ですでに5営業日を数えます。「日銀の基本姿勢は変わっていない」。ある市場関係者はこう断言しています。

この市場関係者は「今年前半はかなり急ピッチでETF買いを進めたため、元のペースに戻そうとしたのではないか」と推測します。実際、ETF買いは今年1~6月累計で3兆3,000億円あまりに到達(設備・人材投資関連のETFを除く)。3月の買い越し額は8,000億円を上回り、月間ベースで過去最高を記録しました(同)。

年間5兆7,000億円の買い入れ目標を掲げているので毎月、同じ金額の購入を前提にすれば、半年では2兆8,500億円が目標になる計算。「オーバーペースだった」との指摘も、決して的外れとはいえないでしょう。

日銀のスタンスについて、ニッセイ基礎研の井出氏は「緩和縮小ではなく、あくまでも無駄には買わないようにしようという考えなのだろう」と説明します。

「できれば減らしたいという意図は感じる」(井出氏)。6兆円のETF購入目標を据え置いた7月の金融政策決定会合では新たに、「買い入れ額は上下に変動しうる」ことも決めました。「そこに日銀の本音が見え隠れする」と市場関係者の一部は受け止めているようです。

改めて問われるETF買いの是非

9月以降の日銀によるETF買いをめぐっては、「0.3%超の値下がり」に代わる新たな基準が出てきた、との声も聞かれます。ある市場関係者は「一定のルールに従ってETFを購入すると、あらかじめ買い建てていた先物の売りをぶつけようとする短期筋の格好のターゲットになるだけ」と話します。

一方、かねて「価格形成を歪めている」というETF購入自体への批判もあります。「株価収益率(PER)など、株価のバリュエーションを測る物差しから見ると割高状態を示唆しているにもかかわらず、ETF買いによって一段と割高な水準に押し上げられてしまう」といった見方です。

「価格形成が歪められると、企業にとっては将来の株価急落のリスク、投資家側からすると株価が高止まりして“買い時”がない、などの弊害が懸念される」(井出氏)

大きく膨れ上がった「リスク資産」への日銀の対応も気になるところです。ETFの買い入れ額はすでに21兆円を突破。株価が急落するようだと、バランスシートが傷つくおそれもあります。「通貨の番人」の財務状態が悪化すれば、「悪い円安」にもつながりかねません。

だからといって、株式相場へのインパクトを考えれば、一気に大量の売却に踏み切るのも想定しがたいシナリオ。市場関係者としても「ソフトランディング」させたいところでしょう。日銀のETF買い入れの巧拙や出口戦略をめぐる議論が今後、さらに活発化しそうです。

(写真:ロイター/アフロ)

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