はじめに
どの金融機関にも1人は存在するという「四季報マニア」。東洋経済新報社が発行している企業情報誌『会社四季報』をこよなく愛し、徹底的に読み込み、本業にも活用している人たちを指します。
そんな四季報マニアたちは、会社四季報のどこをどんな風に読んでいるのでしょうか。そこを探っていけば、一般の投資家にもヒントになる要素があるはずです。
そこで今回は、資産運用会社、新興フィンテック企業、中小型銘柄に強い証券会社という3社の四季報マニアに、それぞれの会社四季報の読み方を披露してもらいました。はたして、経済のプロは四季報をどう使いこなしているのでしょうか。
「四季報は小説だ」
第1回は、三井住友アセットマネジメントで「三井住友・中小型株ファンド」などの運用を手掛けている、木村忠央シニアファンドマネージャー。毎号3冊の四季報を所有し、会社以外に自宅のトイレと風呂にも常備。風呂のフタの上に四季報を置き、シワシワになるまで読むというマニアっぷりです。
「四季報は小説だと思っています」と豪語する木村さん。四季報が手元に届くと、まず巻頭の特集ページから読み始めるそうです。「小説を後ろから読むバカはいないでしょう」と笑います。特集として掲載されている東証33業種分類別の業績動向をチェックします。
続いて、個別銘柄を証券コードが最も小さい「極洋」から最も大きい「ベルーナ」まで、すべての銘柄に目を通します。1銘柄当たりの所要時間は2~3分程度。こうやって流し読みをすることで、あるニュースを見た時、それに関連する銘柄が思い出しやすくなるといいます。
個別銘柄で主にチェックするのは、文章で書かれている「業績欄」と「材料欄」。前者は当面の業績動向に関する説明が、後者は直近の株価材料になりそうな話がまとめられています。木村さんは、それぞれの見出しにアッと思わせるものがあると、その銘柄を詳しく読むそうです。
こだわりの見出しは要注目
特に注目している見出しが「独自増額」。会社四季報では、担当記者が取材し、会社側の出している業績計画が保守的だったり、意欲的すぎると判断すれば、四季報の独自予想として、会社側の計画とは異なる数値を掲載しています。独自増額とは、取材の結果、担当記者が「会社計画は保守的すぎる」と判断し、独自に予想を引き上げたことを指しています。
ほかにも、長い見出しがあれば、要チェックだといいます。限られた文字数の中で、担当記者が長い見出しをつけたということは、それだけその銘柄に思い入れがある証拠だというわけです。
文章部分から定性的な情報をつかんでいくのが木村さん流の四季報の読み方
全銘柄を一度流し読みしただけで、木村さんの四季報読みは終わりません。2回目以降はすべての銘柄を読むわけではなく、前号比での予想の増減額を示している「矢印」や、会社計画比で強気・弱気を示す「顔マーク」だけを読んだり、さまざまなアプローチで気になっている銘柄をチェックします。
最近のお気に入りの読み方は、職場の若手との意見交換だそうです。若手に1週間ほど四季報を読んでもらい、自分なりにビクッときたものを話してもらいます。その内容にへーッと思ったら、その意見を尊重し、どこが面白いのか、自分で詳しくチェックします。
「いろいろな人に聞くと感動するポイントが違うのが、私が四季報は“小説”だと考えるゆえんです」(木村さん)