はじめに
9月12日、米アップルは「iPhone XS」、「iPhone XS MAX」、「iPhone XR」という3つの新型モデルを発表しました。
新型モデルの販売が伸びると、アップルだけでなく、その部品サプライヤーにも好業績が期待できます。今回はどんな企業が部品を提供しているのでしょうか?注目企業をご紹介します。
新型iPhoneの販売台数予想は?
今回発表された3つの新型モデルは、昨年発売された10周年記念モデルである「iPhone X」の新技術(顔認証と有機ELディスプレイなど)を搭載した一方で、販売単価も全体的に引き上げられています。
近年、スマートフォンの需要が飽和しつつある中、アップルは付加価値を高めることによって、販売単価を引き上げる戦略を取っています。例えば、2018年6月までの過去1年間のiPhoneの販売台数は前年比0.9%増の2億1,751万台と伸び悩んだ一方で、販売単価は同11.6%上昇の728ドルと大きく上昇しました(下図)。
昨年の販売状況を鑑みれば、今回の新型iPhoneの販売台数も小幅増にとどまると予想されるため、アップルのサプライヤーにとって部品の需要増加による恩恵はあまり大きくないと言えます。
しかし、部品構成の変化によって一部のサプライヤーが恩恵を受けるのも事実です。好業績が期待できるサプライヤーを見てみましょう。
注目は台湾企業
アップルが今年2月に開示した「サプライヤーリスト2018」を見ると、同社に部品を供給している企業上位200社のうち、台湾が52社、日本が43社、米国が39社、中国(香港含む)が37社、韓国が10社、ドイツが5社、シンガポールが4社、その他が10社と、台湾のサプライヤーが最も多く入っています(下図)。
これらサプライヤーの中で、台湾積体電路製造(TSMC)とラーガン・プレシジョン、キャッチャー・テクノロジーの3社に注目したいと思います。
●台湾積体電路製造(TSMC)
1社目のTSMCは、新型iPhoneの頭脳部であるシステム・オン・チップ(略称SoC、演算や画像処理機能などを一つのチップに集積した半導体)の「A12 Bionic」を製造しています。
同社は世界最大の半導体受託製造会社で、最先端の7ナノメートル・プロセスの半導体製造技術を保持しており、アップルから独占受注した「A12 Bionic」は高い処理性能と省電力性を誇っています。
また、TSMCはアップル社以外からの引き合いも強く、今後米クアルコムやAMD、ザイリンクなど大手半導体設計企業からの受注拡大が期待されます。
●キャッチャー・テクノロジー
2社目のキャッチャー・テクノロジーは、新型iPhoneの外装を製造している会社です。今回発表された3つの新型iPhoneの外装は、すべて金属の外装にガラスのパネルを張り合わせるような構造となっており、端末の大型化などによって単価の上昇が見込まれます。
台湾現地紙の報道によると、同社が担当する外装の供給割合が増加するとの観測も出ており、年末にかけて業績の回復が期待できそうです。
●ラーガン・プレシジョン
3社目のラーガン・プレシジョンは、新型iPhoneのカメラレンズを製造しています。iPhoneの背面カメラには6枚のプラスチック・レンズが入っており、その製造には高度な技術を要するため、同社の営業利益率は約60%という高い水準を誇っています。
昨年の「iPhone X」以降、アップルは端末の背面に2つのカメラを搭載する「デュアルカメラ」の搭載機種を増やしたため、同社はカメラレンズの搭載量増加で恩恵を受けると予想されます。
また、アップル以外のスマートフォンメーカーが「デュアルカメラ」の搭載機種を本格投入し始めたことも業績の追い風になりそうです。
台湾だけじゃない、有力メーカー続々
一方、台湾のサプライヤー以外では、韓国と中国のサプライヤーの動向にも目が離せません。
例えば、「iPhone XS」、「iPhone XS MAX」に搭載された有機ELディスプレイは、韓国のサムスン電子が独占的に供給していますが、中国の大手液晶メーカーであるBOEテクノロジーも昨年10月に有機ELディスプレイの量産を開始しました。
同社は昨年からアップルのサプライヤーリストに加わっており、今後アップル製品向けに有機ELディスプレイや液晶ディスプレイの供給を拡大させる可能性があります。
また、今年の新型iPhoneは、目玉の機能として「顔認証」が前面に押しされています。「顔認証」は複数のセンサーとカメラから構成された「TrueDepthカメラ」という部品によって作動する仕組みで、中でも顔に赤外線を投射して顔の形を認識するVCSEL(垂直共振器面発光レーザー)という半導体部品がとりわけ重要です。
このVCSELの関連企業として米国のルメンタムとフィニサー、台湾のウィン・セミコンダクターズなどが挙げられますが、現段階で技術の方向性やサプライヤーの勢力図が固まったとは言えないため、今後の動向に注目したいと思います。
(文:アイザワ証券 市場情報部 アジア情報課 王曦)