はじめに

「なくなった」「言ってない」そんな高齢者とどう向き合う?

善意の高齢者サービス提供者を悩ませる深刻な問題の一つが、高齢者の中で認知症が発症する人たちが一定確率で出てきて、ありもしないクレームやトラブルが起きるという問題がある。

「大切なものが盗まれてしまった」「財布の中身がなくなった」「暴力を振るわれてアザができた」そんな形で高齢者がクレームを言う場合がある。ところが往々にしてそのクレームを言う高齢者の側が認知症が発症していて、実際にはそんなことが起きていないという場合がある。

善意で高齢者のためにと思って支援をしていても、起きていないトラブルを言いふらされたり、叱られたりということで現場のスタッフの心が折れるということが少なからずある。

「そんなものは注文していないから持って帰ってくれ」や「勝手に持って帰っちゃったので食べるものがなくなってひどいことになった」みたいな正反対の困ったことも起きる。

ここでもITは少なからず役に立つはずだ。たとえばタブレット端末のテレビ電話機能を使えば、その場に第三者に入ってもらって話し合いをすることもできる。二人だけなら藪の中や言い争いになってしまう事態を、コンタクトセンターや上司に間に入ってもらうことで技術的にクリアすることもできるようになる。

認知の問題か不正の問題か?どちらにしても防げるか?

実はこの問題、逆のリスクも存在する。社員の中でひそかに認知症の高齢者を相手に不正行為を働く人間が出てきた場合の対処にもつながるのだ。

銀行や証券などではこのような不正を防ぐため、担当者を定期的に異動させて癒着が起きないようにするような対策ができている。今回のグループでもかんぽ生命や第一生命のように金融機関が仲間に入っていることで一定の不正防止策もそのノウハウを注ぎ込むことで回避できるだろう。

トラブルが認知症の本人に問題があるのか、社内の不正の可能性があるのかは、ITを使ったログでも検証することができる。「注文していないものが届いた」というのも高齢者に渡したタブレット端末のログとGPSから、本人が注文したのか、それとも巡回員が訪問した時間にだけなぜか高価な買い物がされているというような不正の可能性が見受けられるのかがデータとして判断もできるわけだ。

このように考えてみると、今回の座組みはなかなかいいことがわかる。単独の事業者がこのような高齢者支援を行う場合、ここで挙げた3つの問題をクリアするのはなかなか難しいだろう。

しかも日本郵便というのはその点でとても有利だ。なにしろ日本全国に郵便局のネットワークをもっていて、日常的に各家庭を巡回している。そもそもコンプライアンス(法令遵守)が徹底した組織であり、不正が起きにくいという信頼感も高い。

その上でIT、通信、警備、保険など独自のノウハウをもったパートナー企業がその脇を固めているというわけだ。他の企業にはなかなかできない。しかし日本郵便とそのパートナーにはそれができる。これは経営用語で言えば「参入障壁が高いビジネス」ということだから、実はなかなか日本郵便にとって今回の試みは有利な試みと言えるのだ。

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