はじめに

論文や小論文、作文(以下単に「論文」とします)は、「伝えたい考え(自論・自説)を伝えるための文章」です。『読み手を100%納得させる 論理的な小論文を書く方法』の著者、小野田博一さんはこうした文章を書く際の重要点として次の3つをあげています。

1.伝えたいことが読み手に伝わるように書く ──当たり前のようですが、世の中には「何が言いたいのか伝わらない文章」が多いのです。
2.読み手を納得させる ──読み手が納得しなかったら同意は得られません。
3.書き手の考えを示す ──どっちつかずの曖昧な論文に価値はありません。

それぞれの具体的な方法を、小野田さんは著書で詳細に解説しています。ここでは3つのポイントの概略を紹介しましょう。


読み手に伝わるように書くため必要なのは

明言する

論文には、「要するに何を言いたいのか」がはっきりと書かれている必要があります。ところが実際には、言いたいことが明言されていない文章や暗示にとどまっている文章が、とくに日本では多く書かれています(新聞の論説文やコラムでよく見かけます)。

主張したいことがない人や、反論されることが嫌な人がこの種の文章を書いてしまうのですが、しかし、「要するに何を言いたいのか」は文章の「核」です。「核」がなければその文章に価値はありません。

容易に理解できるように書く

そして、「核」は文中に1つだけ書くこと、冒頭のパラグラフで論理構造の骨格を示すことが重要です。そうすれば、読み手は数秒間眺めただけで「この文章は何を言いたいのか」が容易に理解できるからです。

また、読み手は冒頭の文を読み、文章全体についてそれがどんなものであるかを予想します。読み進める途中で予想と異なる展開になると読み手の理解を妨げることになりますから、冒頭の文は、その文章の全貌を正しく見せるものでなければなりません。

冒頭の文の例をあげておきましょう。

例)「私は大学2年の夏休みに、友人と海外旅行をした」

これが何かの文章の冒頭だったとしましょう。これはよい書き出しですか?

いいえ、違います。これではだめです。この冒頭からは、「海外旅行先のことをこの文章では書こうとしているんだろう」と予想がつくだけです。肝心な点──「そのときの出来事を書くことで伝えようとしているもの」が何に関してのことかが見えないので、どんな文章の冒頭としても不適切です。

例)「大学2年の夏休みに私はイタリアに行き、そこで引ったくりにあったことは、私にとってよい経験になった」

これはどうでしょう?

「被害にあったことがなぜよい経験と言えるのか」を説明するために、以下でそのときのことが語られることを示していて、よい冒頭です。この冒頭を読んだ後、読み手は、「はたして本当によい経験と言えるのかどうかの判断(批判)」に思考を集中させることができるからです。
(124-125ページ)

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