はじめに
キヤノンの組み込み製造技術がロケットに生かされる
衛星軌道に到達させるようなミニロケットの場合、発射直後の微妙な姿勢の違いが到達地点では何十kmの違いに拡大していく。その制御が難しかったところから、日本のジャイロの性能がさらにあがり、そしてついにミニロケットが実用化されるまでになっていった。
ただミニロケットの場合、もうひとつ重要なことがある。それは軽量化だ。ジャイロのような重要部品でも宇宙軌道に持ち上げるためには極限までの軽量化が必要になる。そこでキヤノンである。キヤノンが得意なのはデジタルカメラの小型化のような製品組み込み技術である。キヤノンのチームはカメラの小型化に向けた設計・生産技術を応用し、ジャイロを含めたロケット部品の軽量化に取り組むことになるそうだ。
キヤノン電子自体が実は宇宙衛星を打ち上げる計画があり、今回の試みが成功すればロケット開発と衛星事業のふたつの面で事業分野を拡大することができそうだ。
さて、HISとANAが参入するのは商業宇宙旅行のベンチャーである。2023年の商業運航を目指している名古屋のPDエアロスペースに出資したのだ。
意外とすぐそこまで来ている宇宙旅行時代
宇宙軌道を旅行する商業宇宙旅行の実現はそう遠くない未来に実現しそうだ。今回HISとANAが宇宙旅行事業に出資する意味はそこにある。
2023年といえば今から7年後というとても近い未来なのだが、日本だけでなくアメリカ、ロシア、中国もそれぐらいのタイミングを視野に商業宇宙旅行を実現しようとそれぞれ動いている。商業宇宙旅行が実現したあかつきには、HISは宇宙旅行の販売を、ANAは宇宙船の運航を担当することで宇宙事業に本格参入できるわけだ。当初の宇宙旅行は、スペースシャトルのように何日か宇宙空間に滞在するというよりは、宇宙軌道を数時間飛行して上空から地球の眺めを楽しむという旅になりそうだ。
さて実はそのような宇宙旅行はすでに多くの人が体験しているという話がある。それは2003年まで主にヨーロッパの空を飛んでいたコンコルド。一般の旅客機の倍の高さである高度2万メートルの軌道を飛ぶため、窓から見える光景は空というよりも宇宙だった。なにしろ窓の上の方の色は真っ黒だし、窓の下の方に目をやると気象衛星の画像のようにはるか眼下に雲が見えるのだ。
実際、コンコルドを復活させる計画や、コンコルドよりも安価な超音速旅客機の開発計画も進んでいる。飛行する軌道によっては宇宙旅行よりも安価に、幻想的な宇宙の眺めを楽しむフライトが実現するかもしれない。一方で本当の宇宙旅行についても、われわれが海外旅行に2~3回行くぐらいのお金を貯めることで実現しそうだ。
宇宙から地球を眺める旅に出られる日は、意外と身近な現実になるのかもしれないわけだ。