はじめに
10月5日に発表された米9月雇用統計は、失業率が事前予想(中心値は3.8%)より強い3.7%となった一方、非農業部門就業者数は事前予想(中心値は前月比+18.5万人)よりも弱い、同+13.4万人という内容でした。また、注目の平均時給は前年比+2.8%と、予想通りでした。
米新規失業保険継続受給者数が1973年以来の低水準まで低下していることから、筆者は非農業部門就業者数が前月比+25万人以上になると予想していました。そのため、為替相場の見通しも、米9月雇用統計を材料に1ドル=115円台まで上昇し、その後11月6日の米中間選挙に向けて調整色が強まるとみていました。
しかし実際には1ドル=115円台をつけることなく、足元は111円台と調整相場に入っています。今後のドル円相場はどのように動きそうなのか、見通してみたいと思います。
ドル円の調整相場を誘発した材料
初めに、10月8日~12日の週の調整相場(あるいはリスクオフ相場)を誘発した材料について整理してみます。
(1)中国の外貨準備高の減少
→ 中国による米国債の売却加速観測を彷彿させたと思われます。
(2)世界同時株安
→ 2月の「VIXショック」を彷彿させたと思われます。
(3)米財務長官の「為替条項」発言
→ 日本に対する円高圧力と、マスメディアや市場関係者が解釈したと思われます。
筆者は当初、米9月雇用統計後から米中間選挙までのドル円の調整相場(円高ドル安相場)を予想していました。しかし、上記の3つが主因となり、ドル円相場は10月8日~12日の週に2円超の円高が進行。日経平均株価は一時、週間ベースで1,200円超の下落となりました。
円高誘発材料の解釈は?
注目される経済指標や企業業績が大幅に悪化したわけでもないのに、円高・株安が進んでしまった理由は、米中間選挙に向けて(買い持ち)ポジション調整のきっかけを探っていた投資家が至るところにいたからではないか、と思っています。
(1)に関しては、9月末の外貨準備高が事前予想の3兆1,050億ドルに対し、3兆0,870億ドルまで減少しました。米中貿易摩擦下における中国による米国に対する報復として、市場が期待していたリスクオフ相場材料となったのでしょう。
(2)に関しては、「世界の株式上昇が終わった」と解説していた人たちがかなりいた2月相場があまりに記憶に新しいことで、年内の益出し・損切り・合わせ切りを急がせてしまった可能性が高いと思われます。
(3)に関しては、スティーブン・ムニューシン財務長官が10月13日、「われわれの目的は為替問題だ。今後の通商協定にはそれらを盛り込みたい。どの国ともだ。日本だけを対象にしているわけではない」などと発言したものです。
トランプ恫喝をあおって円高相場にしようとしてきた試みがことごとく打ち砕かれた市場参加者たちの最後のお願いに近い解釈、と筆者は考えています。
ムニューシン発言をどう読むべきか
ムニューシン長官の発言に関する報道を読んで、筆者が最初に思ったのは「財務長官が自分の口からいきなり『為替条項』などという単語を発するだろうか」ということでした。記者の取材に応じたということは、相場を動かしたら英雄気取りの記者の誘導尋問的な質問への回答だったのではないかと思っています。
加えて、日本での報道は「日本に対して突きつけた」というような表現が多いようですが、ムニューシン長官は「どの国に対しても」と述べています。通商交渉を有利に進めるための恫喝的な手段と見ることもできるでしょう。
また、日米通商交渉は数日で結論が出る交渉ではないうえ、日本は交渉を長引かせるのに長けた国です。「為替条項」という単語が報道で使われる瞬間の円高反応を避けられないでしょうが、今の相場の方向性を決定付ける材料ではない、と筆者は考えています。
米中間選挙までは調整色の強い相場(円高、株安、米金利低下)が続くと予想していますが、選挙の結果がどちらに転んでも、選挙後の相場は「行き過ぎたリスク相場の巻き返し局面(円安、株高、米金利上昇)」になると筆者は予想しています。2016年の米大統領選挙後の相場に類似しているといえるでしょう。
(文:大和証券 チーフ為替ストラテジスト 今泉光雄)