はじめに

10月1日に発表された、9月調査の日銀短観。これを受けた主要各紙の見出しには「景況感3期連続悪化」という言葉が躍っていました。

これだけ見ていると、「景気は相当悪いのでは」と感じた方も多かったかと思います。しかし、本当にそうなのでしょうか。今回は「日銀短観」について掘り下げてみます。


そもそも短観って何?

短観は「全国企業短期経済観測調査」の略語で、「TANKAN」として海外でも通用するようです。日本銀行が全国の企業動向を的確に把握し、金融政策の適切な運営に資することを目的に実施しています。調査母集団は、総務省「平成26年経済センサス-基礎調査」をベースとした、全国の資本金2,000万円以上の民間企業約22万社です。

今回発表された9月調査の対象企業数(全国企業)は9,901社で、回答率は99.6%とほぼ全社回答に近い状況です。担当の日銀職員の回答回収に頑張る様子がうかがえます。

日銀短観は1957年から実施されている歴史のあるビジネスサーベイです。企業活動に関するさまざまな判断項目、年度計画を調査していますが、中でも大企業・製造業・業況判断DIが新聞の見出しになるなど注目されています。

2018年9月調査の日銀短観では、大企業・製造業の業況判断DIが+19と、6月調査の+21から2ポイント低下しました。リーマンショック時を挟む2007年12月から2009年3月調査までの6期連続悪化以来となる、3期連続の悪化となりました。

米トランプ政権による保護主義政策の影響や、夏場の度重なる自然災害などが悪材料として出たと思われます。これだけだと、新聞の見出し通り、景気には失速懸念が出ているのかと不安になってしまいます。

たびたび出てくるDIとは?

DIとはDiffusion Index(ディフュージョン・インデックス)の略で、企業の業況感などの各種判断を指数化したものです。

各判断項目について、たとえば業況判断だと、(1)良い、(2)さほど良くない、(3)悪い、という3個の選択肢を用意し、選択肢ごとの全体に対する回答百分比を求め、第1選択肢の回答比率から第3選択肢の回答比率を引いたものをDIとします。

業況判断DIが+19というのは、(1)良いという回答比率が(3)悪いという回答比率を19%上回っていることを表しています。2013年6月調査以降、22期連続して「良い」超のプラスであるという点を強調すれば、景況感の底堅さが継続していることを示唆する数字といえるでしょう。

なお、日銀短観は景況感を方向性ではなく、水準で聞いている唯一の主要経済指標であることにも、注意しておく必要があるといえるでしょう。

中小企業の景況感などは堅調

日銀短観は中小企業も調査しています。中小企業・製造業の業況判断DIは2016年9月調査で▲3と3四半期連続マイナスになった後、2016年12月調査では+1とプラスに転じ、2017年12月調査、2018年3月調査と続けて+15となりました。

+15はバブル崩壊直後の1991年8月調査+20以来の、中小企業としては高水準です。その後、2018年6月調査で+14とやや低下し、9月調査でも+14と同水準になりました。

9月調査の「最近」+14は、前回6月調査の「先行き」見通しが+12になると見ていたのに対し、2ポイント上回りました。足元の景況感が予測より改善するという結果です。中小企業・製造業の景況感はしっかりしている内容といえるでしょう。

雇用人員判断DI(「過剰」-「不足」)は、人手不足感が再び足元で強まったことを示唆する数字となりました。2018年9月調査で大企業・全産業の雇用人員判断DIは23と、1992年2月調査の▲24以来、26年7ヵ月ぶりの水準になりました。

2018年9月調査の中小企業・全産業では▲37で2018年3月調査と同じ、かつ26年10ヵ月前の1991年11月調査の▲38以来の水準になりました。バブル景気の「山」直後の、人手不足感がまだまだ強かった時と同じ水準だそうです。雇用環境の良さを示す数字です。

また、9月調査の2018年度の大企業・全産業の設備投資計画・前年度比は+13.4%。2018年度の全規模・全産業の設備投資計画・前年度比は+8.5%になりました。しっかりした計画です。

9月調査の日銀短観には明るい要素がたくさんある状況です。大企業の景況感悪化をもたらした要因の1つである夏に多発した台風も、10月前半には1つも発生しておらず、落ち着きました。自然災害による一時的落ち込みの反動は、12月調査では改善要因の1つになりそうです。

巨人優勝は短観前年差で改善示唆

セ・リーグの優勝が決まった後、最初に実施される12月調査(1996年までは11月に実施)の日銀短観・大企業・全産業業況判断DIの前年差を見ると、巨人優勝時とそうでない時とでは違いが明白です(下表)。

第1次石油危機が発生した1973年以降では、読売新聞の世論調査で毎年人気第1位の巨人がセ・リーグ優勝した年は、12月調査の前年差は平均で+7.9ポイント、人気2位の阪神の優勝年では平均で+1.7ポイント改善しています。

逆に、人気が3位以下の4球団の優勝年の平均は▲5.8ポイントと悪化しています。なお、同じ巨人の優勝でもセ・リーグ優勝だけでなく日本一になった年のほうが景況感の改善度は大きく、また監督が人気の高かった長嶋茂雄氏であった年の改善度がさらに大きい傾向があります。

なお2016年以降、中日を抜きセ・リーグの人気単独3位に浮上した広島は、今年3連覇を達成しました。今年の12月調査が9月調査の先行き見通し予測通りなら、▲5ポイントになります。その数字を使うと、人気3位になった広島の優勝年3年間の平均改善幅は+0.7ポイントのプラスとなり、1位巨人の+7.9、2位阪神の+1.7に次ぐ数字になります。

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