はじめに
「男性不妊」の原因の多くを占めるのが、精索静脈瘤。前回は、腹腔鏡手術をし、周囲にもオープンにして克服したご夫婦にお話を聞きました。今回は、同じ精索静脈瘤ですが、開腹手術を選び、周囲に特にオープンにせず、妊娠・出産に至ったご夫婦に経験を話していただきました。男性不妊以外の問題も見つかり、原因はひとつだけではありませんでした。
「治療という治療はない」と言われて
<ケース2:Bさん夫妻>
現在夫42歳、妻41歳。約7年の不妊治療を経て、1男(1歳)を授かる。妻31歳から不妊治療を開始、夫35歳で精索静脈瘤(注1)の手術。妻39歳で妊娠。
注1:陰嚢部分にこぶ(静脈の拡張)ができ、血流が悪くなることで精子の運動率や濃度に悪影響を与える。一般男性の15%にみられ、乏精子症といった男性不妊の原因の約40%を占める。
――夫の精索静脈瘤が判明したきっかけは?
夫 :お互いのタイミングを取り始めても妊娠しなかったので、最初、不妊治療のクリニックで、妻と同時にこちらから病院に提案して検査をしてもらいました。でも、その時は精液検査だけだったため、精索静脈瘤については指摘されませんでした。数値がギリギリくらいとは言われました。
妻 :その先生からは「男性不妊気味ではあるけれど、治療という治療はないんです」とだけ言われました。ただし、これだと自然妊娠は厳しいとのことで人工授精を開始。計6周期、毎月、人工授精を試しましたがダメで。体外受精に移行したのですが、これも成功しませんでした。
夫 :そうこうするうちに、妻が治療を始めて3年ほど経ち、ちょうど、私の仕事の都合で関西から関東に引越しすることになったんだですね。結果も出ていなかったから、いい機会だと思って、引っ越し先で転院することにしました。そして私が探してきた不妊治療の病院がきっかけで、初めて自分が精索静脈瘤であることがわかりました。
妻 :私が治療をしていたら、夫の精液の数値が良くなかったので、ある時、看護師さんから「旦那さんの詳しい検査をしたことはあるか」と聞かれて。同じクリニック内の泌尿器科を紹介してもらい、診てもらった結果、初見で見つけてもらったんです。
重度なだけに、手術で効果が
――判明した時の気持ち、手術を決めた理由は?
夫 :精索静脈瘤には1〜4でグレードがあるのですが、重度でした。聞いた時はショックで。でも、術後半年くらいで、目に見える形で運動率などが変わってくる。変わらなくても、DNA損傷が少なくなって受精の打率が上がる。「手術すれば治る」ということも同時にわかったので、ショックはすぐに上書きされました。
妻 :逆に重度なだけに、手術をすれば効果があるのでは?とも思いました。前のクリニックでも、卵はいっぱい取れるんだけれども、受精卵ができなかった。育たない。そこが変わるんじゃないか?ということで、即断即決しました。
――開腹手術を受けたとのことですが、予後は辛かったですか?
夫 :そのクリニックでは手術まではできないので総合病院につないでもらい、1泊2日の開腹手術を受けました。腹腔鏡手術より費用は安いですね(注2)。手術当日の夜は、痛くて寝れず、看護婦さんを呼んで痛み止めを打ってもらいました。歩くのに1〜2週間は足を引きずる感じでした。開腹なだけに、普通に歩くだけでしんどい。1ヶ月くらいはお腹がツレる感じはありました。
注2:約8万円ほどと言われるが、病院や片側か両側かなどよって異なる。
――効果はすぐに出ましたか?
夫 :濃度は少し回復しました。ただ、男性ホルモンの量も少ないとのことで、ホルモン剤も経口投与で併用し、毎月変化をチェックして。半年くらいで、これなら……という状態になりました。
――結果として、出産までに術後どれくらいかかりましたか?
夫 :ここからが、実はまだ長くて。2012年に手術したのですが、結果として2016年に妊娠したので、手術から約4年ですね。
妻 :実は、夫の手術後1年間は高度な不妊治療を休みました。夫が手術を決めたと同時に、1度自然妊娠をしたんです。結果的にはダメだったんですが。だから、手術をしたら、自然に任せてもまた妊娠できるんじゃないかと期待しました。
でも、精子もちょっとずつよくなっているものの、妊娠につながらない。この時期は、手術したのにダメかと焦りましたね。