千円札・二千円札・五千円札・一万円札の4種類ある紙幣。紙でできているから、硬貨ほど偽造も難しくなさそう……と思いきや、実は偽造を防ぐ高度な技術がいたるところに使われています。

紙幣を製造している国立印刷局の工場で、紙幣ができるまでの工場見学に参加しました。


紙幣を造っている工場

硬貨は造幣局で造られ(硬貨の製造工程)、紙幣は国立印刷局で造られています。国立印刷局は東京にある本局のほか、全国に6つの工場を有しています。

紙幣は大まかに、「デザイン・原版の作成 → 紙・インキの製造 → 印刷・断裁」という流れで造られています。

このうちデザインと原版の作成は、紙幣の肖像画が変わるときなど、紙幣のデザインが切り替わるタイミングでしか行われません。この作業を担当する工芸官は技術とセンスを併せ持ったデザイン・彫刻の専門職員で、美術系の学校の出身者が多いとのこと。

紙・インキの製造と印刷・断裁は、工場で行う作業になります。工場の中には、一部の工程だけを担当するところもありますが、小田原工場では、紙・インキの製造から印刷・断裁までを行っています。

では、順を追って紙幣の製造過程を見ていきましょう。

ポイントは、丈夫かつ偽造されにくいように

まずは紙とインキの製造について。紙幣の紙はコピー用紙などと違い、水に濡れても破れにくく、独特の風合いがあります。原料となっているのは、ミツマタやアバカ(マニラ麻)などの植物。


ミツマタ


アバカ

まずミツマタの白皮と、アバカから造られたパルプを機械で細かく刻み、水の中で解きほぐします。

原材料に含まれる異物を取り除いたら、繊維がより強く絡み合うように、さらに繊維を細かくすりつぶしていきます。

これを薬品と混ぜ合わせると、紙のもととなる「紙料(しりょう)」になります。網の上に薄く流して抄き、薄い紙の層を作り乾燥させます。

乾燥させたら紙の完成。巻き取って印刷に適した大きさにカットします。

次にインキですが、インキも紙と同様、国立印刷局で独自に製造しています。紙幣に使用されているインキは20色以上ありますが、それぞれ、顔料やワニスなどを特定の配合で練り合わせて製造しています。

それにより、カラープリンターなどでは出せない、風格ある落ち着いた色合いのインキに仕上がります。また印刷した後でインキが滲まないというのも特徴の一つです。

材料が揃ったら、印刷に入ります。

特殊な技術が必要な「凹版印刷」がカギ

紙の印刷方法には主に「オフセット印刷」「凸版印刷」「凹版印刷」の3種類の方法があります。

コピー機などで使用されているオフセット印刷や、ハンコと同じ原理の凸版印刷は効率がよくコストが抑えられる印刷方法です。雑誌やチラシなど、普段目にする印刷物の大半がこのどちらかの方法で印刷されています。

しかし国立印刷局では、凹版印刷を含む、3種類すべての方法を使って印刷しています。凹版印刷とは、版面に彫り込まれた溝にインキを流し込み、大きな圧力を加えることで紙にインキを乗せる方法。特殊な機械が必要となるなど、他ではあまり用いられていない印刷方法なので、偽造防止の一助となっています。

凹版印刷は、肖像画や額面など、インキの色の濃い部分に使われていますが、インキが多く乗せられているので、印刷部が盛り上がり、触れるとざらっとした手触りがあります。色の薄い鮮やかな部分はオフセット印刷、表裏の印章(赤いハンコの部分)と記番号は凸版印刷で刷られています。

表面と裏面は順番に印刷します。まずは裏面を、オフセット印刷 → 凹版印刷の順に刷り、表面を同様に印刷します。さらに凸版印刷で記番号と赤い印章を印刷し、印刷の工程は終了。

印刷を行っている間は、模様や色が一定か、職員が品質を確認します。

最後に断裁機で定められた大きさに正確に切り分けます。1枚ずつ機械で検査し、千枚ずつの束にして、さらに千枚束をビニールで封包します。こうして製造された紙幣は、紙幣の発行元である日本銀行に引き渡されます。

このように驚くほど細かな技術と手間がかけられ紙幣が造られているのです。
次回は紙幣に使われているスゴい技術について、細かく解説していきます。

国立印刷局 小田原工場

神奈川県小田原市酒匂6-2-1、JR東海道線小田原駅から箱根登山バス国府津駅行きで約20分の印刷局前下車徒歩5分、TEL:0465-49-8225、見学無料、見学時間①9:30〜②13:30〜(要事前予約毎週火・木曜開催、所要約90分)

※小田原工場のほか、東京工場・静岡工場・彦根工場でも見学を行っています。詳細は国立印刷局のホームページへ。

文=南雲恵里香(風来堂)