はじめに

顧客満足が向上し、従業員の生産性が上がる

経営という視点で見ればこの電子タグの導入でビジネスの生産性が異次元に上がります。具体的に言えばこういうことです。

先ほどお話ししたようにレジの待ち時間が大きく減るので、従業員がレジに固定されずに他の業務を行う時間が生まれます。

顧客がもっとたくさん商品を買ってくれるというメリットも生まれるでしょう。レジに長い行列ができていると、一部の顧客は「今日は買うのをやめよう」といってお店から去っていきます。それが言葉通り「今日は」であって別の日に買いに戻ってきてくれるのであればいいのですが、たいがいは一度去ったお客さんは別の店でほしいものを見つけるので、単純に戻ってきてはくれません。

また、電子タグがあれば在庫の把握がすごく楽になるというメリットもあります。

試着室を巡るサービスがどう変わるのか

顧客が試着室に入って服を着てみて、「もうワンサイズ上がいいかな」とか「赤以外の色のほうがいいかしら」と思ったとします。これまでなら従業員を呼んでそういったことを相談する必要があったのですが、電子タグがあれば接客シーンがこんなふうに変わることも予想されます。

試着室で試した商品の別サイズや別の色がほしいと思った場合、電子タグの情報を読み込むタブレット端末のようなものが試着室に設置されていればすぐに、その商品が今、売り場ないしは倉庫にあるかどうかまでわかります。

今までなら従業員を呼んでほしい商品を説明して、それを従業員が売り場や倉庫を回って在庫を確認する。その間ずっと顧客は試着室で待っている。そして、試着室のブースが満室の場合、試着室が空くのを別のお客さんが待っている。そんな無駄がすべてなくなりますから、試着をめぐる業務も革新的に生産性が向上します。

IoTの目指す在庫生産性の向上が始まりそうだ

電子タグが威力を発揮するのは、このような在庫の把握についての業務です。

これまでは店頭の棚とバックヤードの倉庫にどれだけの商品が残っているのかを把握するのはとても大変な作業でした。きちんとやろうとしたら棚卸と言って半日お店を閉めたうえで在庫をすべて数え直すような作業が必要でした。

それが電子タグなら、いちいちバーコードをピッとやらなくても非接触一括読み込みで在庫を調べることができますから、閉店後に(開店中でもいいですが)センサーをもって一通り店内と倉庫を回れば、店内の在庫が完全に把握できるようになります。

ZARAのようなファストファッションのお店では、常に古い商品を売り切って新しい商品を店頭にならべていくことになるのですが、その際に、売れ残っている商品を把握して値下げする作業や、売れ筋の商品を把握して仕入れを強化する作業などが、店長の勘や経験に頼ることなく、データをもとに行うことができるようになります。

さらにその情報はインターネットにつなげることも可能になります。棚や倉庫のリーダー端末を経て、電子タグの情報がすべてインターネットにつながれば、リアルタイムで商品の在庫が店舗でもスーパーバイザーや本部でも把握できるようになります。これがIoT(インターネット・オブ・シングス)です。

そうなれば本部が一括して情報を分析して、商品の過不足を店舗間で補ったり、商品仕入れやマークダウン(値下げ)などの業務を無駄なくおこなうことができるようになるはずです。このように電子タグはIoTの実用領域の有望なひとつです。

電子タグもIoTの仕組みもまだまだその導入にかかる費用が大きいのですが、衣料品のように価格が高いなど、機会ロスの金額が大きいビジネスなら投資の回収は十分期待できます。実際、IoTはファッションブランドビジネスの領域からまず実用化されると予想されています。

今回、国内ファストファッション最大手の一角であるZARAに電子タグが導入されたというのは面白いニュースです。このことによってどれくらいZARAの業界内での競争力が上がるのか?その成果によっては、ファッション業界全体が大きく変わる可能性が見えてくると思います。

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