はじめに

前回の筆者記事(10月19日付「株式市場の下落は、一過性のものなのか 」)では、本年1~3月の下落局面と同じように 、今回の株式市場の不安定化局面も一過性のものであり、年単位の下落に入るというようなトレンド転換にはならないという見方をお伝えしました。その理由としては、景気・企業業績自体の腰折れを現時点では想定していないことです。

今回の記事では、もう少し、現在の不安定な状況を確認したいと考えます。


各国の経済状況には不透明感が漂う

まず、各国の現在の状況を確認してみましょう。市場では、米中貿易問題の悪影響がいよいよ顕在化し、景気に悪影響を与え始めているという見方が出てきています。事実、米国では10月に発表された一部の経済指標、企業決算では、期待に届かない数字が発表され、景気の先行きに懸念を示す見方もあります。

しかし、経済成長の状況を把握するための基礎的な統計のひとつであるGDP統計をみた場合、4~6月期の前期比年率+4%超に続き、10月26日に発表された7~9月期も、予想比上振れの同+3.5%となり、一安心できる数字となりました。

米国の関税措置は、米国内で販売される輸入品の価格上昇を通じて、個人消費にダメージを与えるという考え方もあるのですが、個人消費は+4.0%(4~6月期は+3.8%)と、14年以来で最大の伸びを示しました。

次に、わが国経済を考えた場合、関西を中心をした台風被害や、北海道などの震災の影響があります。災害は経済活動に短期的には悪影響を与えるものの、復興需要などによる反動増も予想され、景気の基調が掴みにくくなっています。

また中国では、米中貿易戦争による悪影響を強く受けているという見解がある一方、政府の力が強い中国では、景気対策が本格化し、景気の落ち込みは回避されるという見方もあります。

欧州においては、英国のEU離脱を巡る英国とEUの交渉は、順調と言い難いと思われることなどが、欧州圏の景気の先行きについての不透明感をもたらしていると思われます。

このような各国の状況の中では、ひとつひとつの経済指標を丹念に把握していく必要があるのですが、これに加えて私は商品市況の動向にも注目しています。

商品市場の状況から底打ちタイミングがわかる?

もし仮に、米中貿易問題による関税措置や貿易問題に起因する将来への不透明感などによって、食料品の輸出や企業の生産活動などに悪影響がでてくれば、原則として、商品市況の価格は低下トレンドに入ると考えることができます。

商品市場の状況を幅広にみることができるCRB指数の推移を見てみましょう。(下図)
現在までのところ、株式市場の不安定化に歩調を合わせる形で、下落しています。

米国金利上昇を懸念したものとしては、2018年の1月23日から同3月23日までの約2カ月間にわたる日経平均株価の下落局面は皆さんの記憶にまだ新しいことと思われますが、この時のCRB指数の推移をみると、商品市場の下落は2018年2月に底打ちしていることが分かります。すなわち、前述の日経平均株価の下落局面ではCRB指数は、株価底打ちの先行指標になったと考えることもできそうです。

今回の株式市場の不安定化は、相当程度投資家心理を悪化させたと思われることから、不安定さを抜け出すには、ある程度、期間が必要だと思われます。そして、株価底打ちのタイミングを精度よく推定することは容易なことではありせんが、CRB指数の動向には注意を払っていただくと、今回の局面でも日経平均株価の底打ちの先行指標となる可能性があるかもしれません。

やはり現在は底値圏近辺

投資においては、底打ちのタイミング以外にも、株価の底値がどのレベルになるかも重要な視点です。これもタイミングと同様、精度よく推定することは容易ではありませんが、株価の割安・割高を示すバリュエーション指標は有力なツールであると思われます。代表的なバリュエーション指標である予想PERを見てみましょう。(下図)

予想PERでみた場合、企業収益の下方修正を前提としないのであれば、現在が底値圏に近いと考えることが自然であるように思います。市場が不安的な状況であるからこそ、丹念な経済・市場状況の把握と冷静な判断が、必要であると考えます。

(文:アセットマネジメントOne チーフ・グローバル・ストラテジスト 柏原延行)

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