はじめに

今週に入り、米アップルiPhoneの販売減速懸念などから、株式市場が下落しています。
10月上旬からの下落局面を経て、投資家心理は不安定化しているため、悪材料に敏感に反応したものと思われます。

今回は、投資家別売買動向を見ながら、わが国株式市場の現状について考えてみます。


海外投資家の日経225先物の売りは月間として最大

10月の日経225先物市場での海外投資家の取引代金(差引き)は、約1兆8,000億円の売り越しでした。執筆時点の日本取引所グループのホームページで確認できる2008年まで遡ってみても、この金額は、月間として最大の売り越し額です。(下図、10月は10/1~11/2)

この2兆円近い海外投資家の売り越し額は日経平均先物によるものですが、このデータの位置付けを理解するために、現物と先物の典型的な売買動向を示す東証1部と日経225先物の投資部門別取引状況を比べてみましょう。 年間のデータを入手可能な2017年1年間の数字を整理してみました。(下図)

まず、売買代金総計を考えた場合、日経225先物は、東証1部現物の約7割の規模に留まっています。日経225先物のほうが、東証1部現物と比較して、総計が小さいため、(売買の容易さを示す)流動性が低いのではないかと思ってしまいます。

しかし、東証1部では2,000を超える銘柄が取引対象である一方、日経225先物では、(限月はあるものの)原則として、日経225の先物という1銘柄の取引です。したがって、日経225先物が流動性に優れ、短期的に大きなポジションを構築したい場合に、適した投資対象であるといわれています。したがって、比較的短期的な大きな金額による投機的目的のため、利用しやすいと考えることも可能であると思われます。

次に、各投資部門が占める割合を考えた場合、海外投資家の比率は、現物で約6割ですが、先物では約7割に達しています。このデータからは、海外投資家の動向が日経225先物の動向を決定しやすいと考えることができそうです。

そして、現物と先物市場は、裁定取引と呼ばれる取引によって、お互いに値段が大きくは、かい離しない構造となっています。したがって、先物市場が下落すれば、現物市場も下落することとなり、その逆も同じです。

10月の「東証1部現物+日経225先物」の「売りと買いの差引」は、2兆円を超える売り越し額に達しています。日銀が1年間で6兆円程度のわが国株式を購入する予定であることを考えると、10月単月の海外人投資家、特に日経225先物を利用した「売り越し額」の大きさが際立ちます。

海外投資家の大幅売り越しをどう読むか

それでは、この大きな売り越し金額は、わが国株式の将来予測を予測するうえで、どのような意味があるのでしょうか。

これは、難しい問題です。「(1)海外投資家は、日本株を見限り始めており、今後更なる売却が見込まれる」などと解釈すれば、持続的な下落要因と解釈できると思われます。

一方で、「(2)このような大きな金額の売り越しは継続しない」や、「(3)先物中心の短期筋の売却であるため、近い将来に買戻しが期待できる」などの考え方は、日経225先物がリバウンドする根拠になりうると思われます。

筆者自身は、株式の需給は、必ず均衡することもあり、大きな海外投資家の売り越し額に右往左往しないことが重要であると考えていますが、10月の上旬から1ヶ月超の期間、株式市場は不安定な状況になっており、投資家心理の改善には、まだある程度の時間を要すると思われます。

猛暑や地震、豪雨、台風などの影響で足元のわが国の景気、企業業績の基調が分かりにくくなっていることは確かです。しかし、日経新聞社の集計によれば、2019年3月期の企業業績は経常利益ベースで1桁後半の伸びが予想されており、企業業績が堅調な国の株式は、基調として、上昇すると考えています。

また、不透明要因の中でも大きな部分を占めると思わるトランプ大統領の貿易問題を巡る強気なスタンスは、株価が堅調なことが支えとなっていたと考えています。今回の株式市場の不安定な動きを受けて、トランプ大統領の貿易問題に対するスタンスが変化するかに注目しています。

(文:アセットマネジメントOne チーフ・グローバル・ストラテジスト 柏原延行)

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